目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第308話 【スコーピオ】

 「しまった!のじゃ!」


 ルカは即座に背中から【クリスタルの羽】を展開し、アオイをしっかり抱きかかえて跳躍。

 無数の魔法と魔刃が放たれる中、滑るように空を駆け、直撃を避ける。


 「ど、どういうこと!?そしてルカ!?なにその羽!」


 「黙って掴まっておるのじゃ!」


 そのまま壁を突き破り暗闇の外へ__


 無理やり展開された翼のせいで衣服が裂け、肩や背中が露出していたが、今は気にしていられなかった。


 「追え」


 王・アビの冷徹な一声で、天井に待機していた【バットドラゴン】達が一斉に羽ばたき、血を求めるように夜空へと飛び立つ。

 飛行可能な吸血鬼兵達も続き、空に黒い群れが生まれた。


 一方で、地上に残されたルコサはまったく動じていなかった。


 「さて……よくぞ残ったな、人間」


 王座にふんぞり返ったまま、アビが冷たく笑む。


 「うん、歓迎されてるのがよーく伝わってくる。……この空気、湿っぽくてカビ臭くて、なんだろう……ハロウィン?」


 「くだらん」


 アビは玉座の肘掛けに指を添え、そこに刻まれた古代紋章に魔力を流す。


 「《血魄の咎紋》――開け」


 ズンッ……



 王の魔力に応じて、玉座の前に禍々しい紅黒の魔法陣が浮かび、そこから液状の闇――《血の弾丸》が大量に生成される。

 それは空気を裂いてルコサへと襲いかかった。


 「っと、派手に来たねぇ……!」


 ルコサは左腕に【光る盾】を展開、飛来する魔血弾をすべて受けきる。

 衝撃と魔力の炸裂が響くなか、ひとつも傷を負わない。


 「ほう、全て防ぐか……なんだ?その武器は」


 「ふふん。これ?【未完成の武器】ってやつ。完成してたら君の部下たち、もう全滅してたかもね?」


 右手に光の槍を展開し、ルコサは軽く肩を回す。


 「まぁ、ひとまず――一本、お見舞いしとこうか」


 ピシッ――


 放たれた《光槍》はアビを狙い、一直線に飛翔する!


 ドォン!


 だが直撃したのは、アビの“かつての”王座。

 光の爆風が吹き荒れる中、その姿はまるで最初からそこにいなかったように消えていた。


 「__っ!?」


  ——ズブッ。


 鋭い音と共に、ルコサの身体が大きくのけぞった。


 「ガ、ハッ……!」


 いつの間にか背後にいたアビが、無表情で黒い剣を突き刺していた。


 「ど、どうし……て……」


 呻くルコサが振り向こうとするその途中、アビは静かに囁いた。


 「冥土の土産に教えてやろう。我が魔眼は【スコーピオ】。暗殺の王の前で——同じ時間にいられると思うな」


 ルコサの肩が震え、目を見開いたまま力が抜けていく。


 「は、はは……神ってやつは……ほんと、いじがわるい」


 膝をつき、ゆっくりと前のめりに倒れ込む。その体から、血が静かに流れ広がっていった。


 アビは冷めきった目でルコサの亡骸を見下ろし、指を鳴らす。


 「この死体は“棄場”へ。魔物にでも食わせておけ」


 部下たちがすぐさま動き出す。


 「それと、各支部に通達だ」



 「『人間が逃げ出した』と——」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?