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第309話 【巨大都市スコーピオル】

 「な、なに!?どうなってんのおぉおお!?」


 「くっ、しつこいのじゃ!」


 暗黒の夜空を、ルカのクリスタルの翼が裂くように飛ぶ。


 ここは《巨大都市スコーピオル》

 吸血鬼が作った闇の大都市。地上には摩天楼のように連なるビル群、そして__


 「のじゃ!?」


 ルカの背後には、数千、いや数万にもおよぶ魔物と吸血鬼の大軍勢が追っていた。



 吸血鬼たちは魔法を雨のように撃ち放つ。



 「目、目がまわるぅぅ!」


 真っ暗な空、錯乱する風。

 上下左右に縦横無尽に飛び回るルカの動きは、まるで戦闘機そのもの。

 視界が効かず、音と風と回転感覚だけの空中戦に、アオイは酔いそうになりながらも、必死に耐えていた。


 「転移ポータル、弄られていたのじゃ……油断したのじゃ!」


 ルカが一気に垂直上昇を始める。

 下方にうごめく魔物の群れが、闇に蠢く影と化したその瞬間——


 「【クリスタルアロー】!」


 その声と共に、羽から放たれたのは無数の蒼白の光矢。

 鋭利な結晶の雨が、青い稲妻のように弧を描きながら、吸血鬼と魔物の軍勢へ突き刺さる。

 破裂する水晶、断末魔、光と血飛沫が夜空に舞い、何百体もの敵が翼を焼かれて墜ちていく。


 だが。


 「ちっ、まだまだなのじゃ!」


 数の暴力は止まらない。闇の果てから次の波が現れ、なおも追撃してくる。


 「これ、マジで洒落になってないってばああああ!」


 「くっ!」


 「うわぁぁぁあ!!」


 アオイのその叫びと同時に、ルカの身体が稲光のように落ちる。

 上空から一気に急降下、速度と重力の勢いを翼に乗せ、両翼のクリスタルブレードで次々と斬り裂いていく。


 そのまま都市部へ一直線、ビルの谷間に差し掛かった瞬間——


 「【プリズマ・レイライン】!」


 ルカの叫びと共に、数枚の小型クリスタルが空中に放たれ配置される。


 次の瞬間、羽先から放たれた、煌断線(こうだんせん)が結晶群を次々と反射・屈折・分裂しながら都市空間を走る!


 煌断線(こうだんせん)が通った道の後は全て切り裂かれ何千という軍勢を倒したがまだだ!


 「も、もう、むりぃ……」


 アオイの声がかすれ、しがみついていた手から力が抜けかける。


 「アオイ!しっかりするのじゃ!」


 ルカは必死にアオイを抱え直す。


 「どうにか隠れる場所を!のじゃ!」


 ビルの合間を縫って飛ぶたび、吸血鬼たちの怒号と魔法がすぐ背後をかすめる。



 「【クリスタルグレネード】!!」


 正面で放たれた球体がビルの谷間で炸裂し、巨大な水晶が破裂するように膨れあがり、二棟のビルを貫いて崩れさせる。


 崩れゆくビルの瓦礫を超低空飛行で交わしながら衝撃で舞い上がった砂煙のカーテンに紛れて、ルカは近くの建物の中へと滑り込んだ。


 「はぁ……はぁっ……なんとか撒いた、のじゃ……」


 「…………うにゅぅ」


 アオイはすでに白目を剥いて、泡を吹いて気絶している。

 ルカはその体をお姫様抱っこしたまま、肩で息をしながら建物の奥へ進んでいった。


 そして——


 「な、なんなのじゃ!?ここは……!」


 その瞬間、ルカの目に飛び込んできたのは、無数のカプセルと……その中に浮かぶ、人間たち。


 壁一面に並ぶ透明な培養槽。

 どれも眠らされた人間たちで満たされており、ゆっくりと、機械が管を通して血液を抽出している。






 そこは吸血鬼達の【食料倉庫】だった。





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