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第316話 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!

 「わかりません」


 すひまるは、明確に嘘をついた。

 アビからは見えないが──彼女の視線の先には、確かに隠れているアオイの姿があった。


 「ほう?そうか」


 「そ、その......私は脅されていただけで......ルカさんに、無理やり!」


 「ならば、仕方ないな」


 「......え?」


 「お、おねーちゃん!?」


 その瞬間、すひまるの腕の中にいたセミマルの身体が、ふわりと宙に浮いた。


 「セ、セミマル!?」


 「おねーちゃん……なんか……身体のなかが、あつ……い、いた……い……」


 「死ね」


 「──おね、え……」


 パンッ!!


 破裂音。風船が割れたような。


 だが、それは──小さな身体が肉片と化して四散した音だった。


 部屋の中に血と肉が弾け飛ぶ。


 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」


 すひまるの悲鳴が空気を裂く。


 「セミマル!セミマル!!ど、どうして……!どうしてこんなことをぉぉぉおおお!!!」


 絶叫しながら、すひまるの身体が変化する。【オルビアル】──紫の肌、針の尻尾、黒い翼。

 絶望と怒りがそのまま形になった姿。


 「殺してやる……殺してやる……!!」


 少女の叫びが、王に向けて放たれる。


 しかし。


 「貴様ごときの攻撃が届くわけなかろう」


 静かに放たれたその一言の直後──。


 ズルン、と音がした。


 見ると、すひまるの尻尾は根元から断たれていた。


 「あ……れ……?」


 次の瞬間、身体が崩れる。支えを失って前のめりに倒れ込んだ。


 なぜ倒れたのか、すひまる自身もすぐには分からなかった。


 でもすぐに気づいた。


 ──太ももから下の右足が、消えていた。


 「ぐっ……ギギッ……」


 激痛が、遅れて神経を襲う。


 嗚咽すら、まともに出ない。


 「ふむ、これでも出てこないとなると、どうやら本当に居ないらしい」


 「ど、どうして……」


 「報告によると貴様は『女神』に気に入られていたらしいからな。近くにいればこれで出てくると思っただけだ」


 「どうして……どうして……」


 「俺は慎重なのでな。まずこの女を匿っている時点で許すわけないだろう。それと、その身体を維持するには人間の血が必要……下級吸血鬼に人間の血は支給されない。どうやっていたのか気になっていたが——」


 アビは【輸血パック】が詰められたバッグを軽く持ち上げて見せる。


 「…………」


 「どうやら、貴様は《工場》に忍び込んでこれで維持していたようだな。血を盗むのは重罪だ。【死刑】は確定している」


 ——最初から、アビは【すひまる】を殺すつもりだった。


 甘い言葉で油断させ、居場所を聞き出し、利用するだけ利用して……用が済めば処分する。


 「セ、セミマル……」


 すひまるは、這うようにして近くに転がっていた【セミマルの肉片】を手に取る。


 その手に、まだ暖かい感触があった。


 それは、ほんの数分前まで確かに生きて動いていた——自分の弟の、ぬくもりだった。


 「ごめん……ごめんね……セミマル……」


 ぽた、と血と混じって涙が零れ落ちる。


 すひまるの目から、生気が失われていく。


 「貴様は良く働いた用済みだ……これから先はコイツを餌として誘き出そう」


 そう言って、アビの瞳に【サソリ】の紋章が浮かび上がる。


 そして——


 【時が止まったままのルカ】の身体ごと、彼女は空間から姿を消した。







……………………


…………


……







 『さぁ、絶望しなさい♪』













 『ア・オ・イ・ちゃん♪』























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