「(ど、どうして!)」
どうして俺を庇った!?
すひまるちゃんから俺の姿は見えているはずなのに――
そして――パァン!という乾いた音とともに、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」
すひまるちゃんの絶叫が、押し入れの中まで響いてきた。
「(!?)」
ペチャッ――と、押し入れに何かが転がり込む。
暗がりの中でも、それだけはハッキリわかった。
セミマルの……眼球。
「(ウッ……!)」
込み上げる吐き気を必死に飲み込みながら、俺は震える手で口を押さえる。
「セミマル!セミマル!ど、どうして!どうしてこんな事を!うわぁぁぁぁあ!」
「(!!!)」
怒りに満ちた叫びとともに、すひまるちゃんは【魔王】に向かって飛びかかる。
その瞬間――また“あの感覚”が俺の身体を支配する。
静寂。
世界がピタリと止まった。
時間が凍りついたような錯覚。
ビリビリと肌を焼くような殺気だけが、俺に突き刺さる。
「(出ないと!)」
この感覚の正体はわからない。
けれど――今、俺が動かなければ、すひまるちゃんは殺される!
彼女は吸血鬼、人間の敵。
でも――!
「(目の前で知ってる人が殺されるのを見殺しになんか出来ない!)」
この一年。
俺は、幸せだった。
奴隷でもなく、勇者でもなく、ただの人間として――異世界で“普通の生活”を送っていた。
クラスがあって、授業があって、笑いがあった。
全部嘘だったとしても、あの日々は確かに楽しかった。
俺にとって、夢にまで見た異世界生活だった。
――だから守る。俺は守るんだ。
もう、大切なものを失いたくない。
もう、後悔なんてしたくない。
あの時も、あの時も、あの時も、あの時も――
俺はいつも、守れなかった。
もう見たくない!
血も! 傷も! 絶望も!
俺が、出れば――!
『ダメよ♪』
――――――――――――――――――――――
「…………え?」
俺は、押し入れに居たはずだったのに。
……いや、違う。
これは――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
どういうこと!?どうして!?
なんで!?どうして!?どうしてすひまるちゃんが!?
「すひまるさん!すひまるさん!!」
必死に叫ぶ。
でも、彼女の声はもう……どこにもない。
「なんで……なんでなんだよ……」
ぐちゃぐちゃな感情の渦の中。
ただひとつ、はっきりしていることがある。
「また……また俺は何も出来なかった……くそおおおおおぉあぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺は――また【絶望』した。
【同期完了』
【キャハッ♪これで【勇者の力】もやっと使える♪さぁ、解放しなさい、私が食べていたその……』
【感情を♪』
怒り。
俺の奥底から沸き上がる、灼熱のような【感情』。
忘れていた――いや、封じられていたもの。
それが今、解き放たれた。
「許さない……許せない……」
俺はゆっくりと、その【魔法』を紡ぐ。
「【武器召喚:ディエス・エクス・マキナ】」