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第326話 【キール】


 「おーい、生きてる?」


 ルコサは気絶しているアビに声をかけるが反応はない。


 「まぁ今起きられても困るさね、早く運ぶさね」


 「それもそうだねぇ、はぁよっこいしょめんどくさ」


 ルコサはアビを抱えあげてめんどくさそうにルダの設置してくれた転移ポータルで転移する。


 「おー、良く見える良く見える」


 転移した先はどこかの山の上。

 そこからはとてつもなく山より大きくそして広い黒いドームがあった。


 「あれが巨大都市スコーピオルさね......それにしても、世界は本当に広いさねまさか人間が家畜のように管理されてる生き物だったとは」


 「あ、自分は人間じゃないって自覚はあったんだ?」


 「うるさいさね、それより早くそいつを起こすさね」


 「はいはい、あーめんどくせぇ、回復魔法なんてクロが来てすればいいのに」


 ルコサは回復魔法の魔皮紙をアビに当てて回復させる。

 ゆっくりと吸血鬼の王は目を覚ます......


 「............」


 「おはよう、魔王様」


 「人間......貴様殺したはずだが......」


 アビは冷静になっている、いや、これはもはや諦めだ。


 魔王アビは負けた。


 本当ならば殺されているはずの存在。


 「ところがぎっちょん、生き返っちゃったんだなぁ、君も生きてる」


 「......」


 「君が悔やむことはないよ、今回の相手は相性が悪かった、他の敵なら君の魔眼でなんとかなるだろうけど今回の相手は相性の問題さ」


 「......」


 「現にその魔眼で」


 「ご託はいい、なぜ俺をここに連れてきた」


 「君は『女神』を倒そうとした、それは僕達と同じ目的だ、だから君をスカウトしにきた」


 「バカか?俺は【スコーピオ】の魔王だぞ?貴様ら人間などと組むわけがなかろう」


 「そう、だから......」


 ルコサはそこまでいって悪い笑顔になりこう言った......


 「君の拒否権を無くす」



 その瞬間、アビは悪寒を感じた。

 いや違う、悪寒ではなく、周りの温度が下がったのだ。

 ある人物によって......それは


 「紹介するよ、あの【伝説の勇者】の子孫......【キール】くんだ」


 「!?」


 ルコサ達と同じ転移ポータルから出てきたのは白銀の長髪の騎士。

 その手には黄金の盾ともう片方の手には【氷の刃の剣】が握られていた。


 「あの......【伝説の勇者】の!?」


 「やぁ、キーくんおはよ、良く眠れたかい?」


 「あぁ......いい夢だったよ、ルコ」


 「神からの最初の仕事は聞いてるね?じゃぁ頼むよ」


 キールは氷の剣を黒いドームに向ける。

 アビはその姿を見てただならぬ悪い予感を感じた。


 「ま、まて!何をするつもりか知らないがさせない!」


 アビは【魔眼】を発動し、ルコサとルダ――三人の時間を止めた。


 世界全体ではない。“外”まで止めれば、あの【アオイ』に異変を察知されかねないと判断したからだ。だが――


 「……魔王だけが持つことを許される【魔眼】か」


 「な、なにっ!?」


 止まっているはずのキールが、ゆっくりと歩を進める。


 ルコサとルダは完全に静止している。しかし、キールだけはまったく影響を受けていなかった。


 「私は護りが堅くてね。【目撃護】」


 キールがルコサたちを一瞥すると、アビの【魔眼】が無効化され、時が戻る。


 「な、なんなんだ!【アイツ』といい!【お前達】といい!一体何者なんだ!」


 アビは怯え、同時に怒りを滾らせる。


 しかし、キールはその問いに応じることなく、再び巨大な黒いドーム――【スコーピオル】に向き直る。


 空気が、凍りつく。


 その瞳には一点の迷いもなかった。


 「……【目撃封】」


 静かに、確かに、氷の剣を掲げながらそう呟いた。



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