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第327話  【神の使徒】これで全員揃った。

 「【目撃封】」


 その魔法が発動された瞬間、巨大都市スコーピオルに異常が走った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「魔王様!?応答を!こちら指揮本部、至急応答を!」


 魔王の不在に焦った吸血鬼将校たちの声が、魔術通信に飛び交う。だがその声は返ることなく、空虚に掻き消えていった。


 「う、嘘だろ……まさか、魔王様が……」


 「ば、馬鹿なッ!あの『女神』相手に、負けるはずが……っ!」


 だが否応なく【現実】は押し寄せる。


 アオイが残した【糸』によって拘束されていた兵たちは、強度が薄れると共に次々と解放されていった。


 ——その瞬間、都市の統制が崩壊する。


 「何が起きた!? 魔王城の結界が……消えた!?」


 「俺たちは……俺たちはどうすれば……!?」


 もはや都市に残るのは、吸血鬼のみ。


 人間家畜はすでにアオイの手ですべて返され、この地に“熱を持つ生命体”として残っているのは吸血鬼だけだった。


 そして——


 「お、おいっ! お前……その腕!」


 「え? な、なんだこれ……つ、冷てっ!? ひ、ひゃあああ!!」


 ある吸血鬼の腕が凍りはじめ、皮膚の中へと氷が音を立てて侵食していく。


 「た、助け……が……がぁぁぁぁ!!」


 バキィッ!


 その吸血鬼は、瞬く間に氷塊へと変わり果てた。


 「ひ、ひとが……氷に!? ひいいいッ!?」


 それは始まりの合図だった。


 凍気が一斉に街を這い、吸血鬼達を次々と凍りつけていく。兵士、指揮官、魔物の成れの果て、すべて例外なく。


 「う、動けない……寒っ……く、苦しい……!」


 「誰かッ! 誰かあああああ!!」


 叫び、暴れ、抵抗しようとした者たちも、最後には凍てついた彫像と化して地面に転がる。


 そしてその凍気は建物を伝い、塔を貫き、街全体を飲み込み——


 巨大都市スコーピオルは、《氷の花》の形を象って凍結した。


 その美しさはまるで、咲いてはならぬ地獄の華。


 都市は沈黙し、ただ静かに、凍った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「あ、あ……」


 自らが作り上げた巨大都市が、わずか数分で【氷の花】と化す様を目の当たりにし、アビは愕然と立ち尽くしていた。


 【スコーピオル】——吸血鬼の人口は人間の三倍以上。比例して都市の規模も尋常ではない。それは、他の人間国家すべてを足してもなお足りぬほどに巨大だった。


 その都市が——まるごと。


 「封……印……だと……?」


 「驚いたかな? 魔王様。そ、これは【封印】……君が僕たちの仲間にならなければ、あの都市が再び目を覚ますことはないよ」


 「くっ……!」


 拒否する自由はない。


 もしここで逆らえば、都市は永遠に氷の中。

 それどころか、目の前に立つこの騎士……キールと再び対峙することになる。


 【氷の花】を一撃で咲かせた、その力と共に。


 「よろしくね、あびたん♡」


 「……なんだ、その名は」


 「こっちの方が可愛いでしょ? 呼びやすいし」


 「ふん、知るか……」


 ルコサはアビの返答を聞くと、口元を歪めて笑う。

 完全に屈服させたわけではない。だが、もう充分だった。


 この場において——アビは、仲間になった。


 「見事な魔法だね、キール」


 褒めるルコサに対し、キールはほんの僅かに眉をひそめ、不満を隠そうともしなかった。


 「……これでも、本当の【勇者】よりも……弱いのか」


 「うん、君は【子孫】であって【勇者】じゃない。だからこそ、僕たちが必要なんだよ」


 そう言いながら、ルコサは懐から世界地図を取り出す。


 指定されたポイントに触れた瞬間、空間に転移魔法陣が浮かび上がる。


 「さて……【神の使徒】はこれで全員集合、だね。今頃クロのところにも、オリバのところにも魔法陣が出てるはずさ」


 「新入りの挨拶もあるし、ちょっくら集まって会議でも開こうか」


 そして。


 巨大な【氷の花】を背にして——


 アビ、ルダ、キール、ルコサの四人は、淡い光に包まれて転移していった。





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