目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第328話 【神の使徒会議】

 「おーー!ルコさんじゃねーーかーーーぁ!」


 「あぶね!」


 バァンッ!と豪快に教会の扉を蹴り開けたのは、肩までの金髪をなびかせる少女クロエだった。

 その勢いのまま、ルコサへ向かって飛び蹴り——ドロップキックをお見舞いしようとするが、


 「挨拶が強引すぎない!?」


 ルコサは神父服をひるがえして回避し、ついでに真っ白な法衣をバサバサとはたく。


 「うるせー!死んでるのかとおもったじゃねーか!」


 言葉の裏に本気の心配がにじんでいたが、態度はいつも通り荒っぽい。

 クロエは黒と赤を基調としたライダースーツ姿で、男勝りな動きも相まってその姿はまるで戦闘狂の獣のようだ。


 「そやつは実際一回死んでいるさね、クロエ」


 そんな空気に水を差すように、落ち着いた声が教会の奥から響く。


 長椅子に腰を掛けていたのはルダ。

 どこから持ってきたのか、黒いセーラー服を着込みながら、肘をついて足を組み、飄々とクロエに視線を向けていた。


  「ルダ!てめーも来てたのか!」


 「当たり前さね、それに……ほれ、来たさね」


 ルダが顎で扉の方をしゃくると、まるで計ったように扉がゆっくりと開く。


 そこから現れたのは、真っ黒のスーツに身を包み、片眼鏡をかけた端正な吸血鬼——アビだった。

 以前の威圧的な気配は鳴りを潜め、静謐な貴族のような佇まいで堂々と歩みを進める。


 「……へぇ、あいつが例の……」


 クロエは目を細めて観察する。

 だが当のアビは、クロエを一瞥すると興味なさげに、


 「こんな子供も居るのか」


 と言い放ち、教会の最前列、神像の正面にある長椅子に座り込んだ。


 「……あ? 今なんつった?」


 クロエの眉がピクリと跳ね、足音も荒くずかずかとアビの前に詰め寄る。


 「あー……クロ。ルダの時もそうだったけど、喧嘩ならあとにしてくれー……」


 ルコサが心底うんざりした様子で頭をぽりぽりと掻く。

 だがクロエは睨みつけたまま、ついでに舌打ちを一つ。


 「ちっ! 覚えてろよ」


 「…………」


 無言で視線を外すアビ。火花のような空気が一瞬走るも、クロエはそのままドカッと横の長椅子に座り込んだ。

 時間が惜しいのは、彼女もわかっている。なぜなら全員が、【神】から命じられたそれぞれの任務の最中に呼ばれているのだから。


 「……あと、オリバは」


 ちょうどそのとき、教会の扉がもう一度静かに開かれた。


 入ってきたのは、黒と緑の重厚なロングコートを羽織った、整った顔立ちの青年。

 彼の名はオリバル。いつもと変わらぬ静かな足取りで中へと進み、


 「よ、オリバ」


 「おせぇんだよ、オリバ」


 「……ごめん」


 短く、静かに返すと、オリバルは視線を巡らせてアビの姿を一瞬確認する。

 それでも何も言わず、空いていた長椅子に腰を下ろした。


 これで四人——アビ、クロエ、ルダ、オリバルが、教会の神の銅像の前に立つルコサを囲むように座した。


 「さて、これで揃ったね……まずはクロとオリバに報告がある」


 「んだよ?」


 「なに……?」


 「キーくんが復活したよ」


 「「……っ!!」」


 二人の反応はまるで雷が落ちたようだった。


 「マジかよ!? おいおい!生きてたんかアイツ!? で?今日は来てねーのか!?」


 「……キーくん、どこ……? 今、来てるんじゃ……」


 喜びを隠しきれない様子で、クロエもオリバルも周囲をキョロキョロと見回す。


 だがルコサは、肩をすくめて苦笑い。


 「残念ながら、彼には今どうしても外せない【神】の仕事があってね。今回は欠席、ってとこかな」


 「はー……マジかよー……んじゃ今度会ったらぶん殴っとくか」


 「……挨拶くらい、すればいいのに……」


 ルコサは少し目を細めながらも、場の空気をほぐすように手をひらひらと振った。


 「まぁまぁ、そう怒らずに。彼の復活は重要だから、ちゃんと伝えておかないとって思っただけさ」


 「……ふん。まぁそれはわかった。けどなルコさんよ」


 クロエは不満げに椅子の背もたれにぐいっと寄りかかり、腕を組む。


 「【神】の仕事を押し付けて行方くらませてたアンタが、ちゃっかり無事で戻ってきたって報告と、キーくん復活ごときで、わざわざ全員呼び出すわけねぇよな? 早く本題話せ。殺すぞ」


 「……おお、よくわかってらっしゃる」


 ルコサはやれやれと肩を竦めながら、指をぱちんと鳴らす。


 「じゃあ、本題に入ろうか。なんか質問があればその都度どうぞ。……めんどくさいけどねぇ~、はじまりはじまり」


 ルコサは両手を胸元で重ね、そこから淡い光の魔法陣を発生させると、それを下から上へと勢いよく振り上げた。


 その瞬間——教会の中の光がすべて消える。


 ステンドグラス越しの自然光すら遮断されたような闇の中に、ふわりと浮かぶ【光のモニター】が現れる。


 {あ、あー……テステステスト、テスト~}


 {みんな、聞こえる?}


 「聞こえてんよ、はよしろっての!」


 クロエの怒鳴り声が響いた瞬間、ルコサの魔術が起動する。


 ルコサは魔法で空間に響かせるのではなく、直接それぞれの鼓膜に作用する【神の使徒】専用の術式を展開していた。


 {はいはい……ったく、めんどくせー……}


 ルコサの声が、全員の脳内に淡く、しかし明確に届いていく。


 {今日こうして集まってもらったのは、他でもない。みんなも目の前で見た通り——魔王【アビ】くんが、僕たちの仲間になったってわけ}


 「……チッ、やむを得ずだがな」


 アビが静かに呟くと、クロエはあからさまに舌打ちを返す。


 {うんうん、そのスーツも似合ってるよ。ま、ちょっと地味だけどさ}


 ルコサは飄々とした声のまま続ける。


 {これで、この世界における僕たち【神の使徒】は——全員、揃った}


 ルコサが右手をひらりと掲げると、モニターの魔法陣が僅かに明るさを増した。


 {だからさ。みんなにも改めて、知っておいてもらおうと思ってね}


 {過去に僕がやってきた“仕事”と——そして、現在……世界がどうなってるかを}

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?