《モグリ邸》
みんながワイワイと庭で遊び騒ぐ中、端っこの生け垣の影で、金髪の少女ふたりがひそひそ声で顔を寄せ合っていた。
「いいですか、みーちゃんっ! この“たからのちず”は……ほんもの、なんですっ!」
そう言って、ユキは小さく折りたたまれた魔皮紙を取り出し、大げさに“シーッ”のジェスチャー。
「ふふっ……ほんとかなぁ?」
少しだけ年上のミイは困ったように眉を下げて微笑む。
彼女のその様子は、“まあまた始まったか”という、どこか慣れた反応だった。
ふたりは同じ人物を密かに――けれど堂々と――憧れているという共通点があり、自然と気が合うようになった。
だから今日も、こうして一緒にいる。
「ほんとですってばっ! 今度こそ見つけて、見せるんですっ……!」
どんなときも、遊びの主導権はユキにある。
その勢いに押されて、ミイが根負けするのがいつものパターンだ。
今回も例に漏れず、「宝の地図ごっこ」ということで――
「わかったよ、それで……どこにあるの?」
「ここですっ!」
ユキは得意げに魔皮紙をビシィッと広げた。
羊皮紙のようなその紙には、自分たちの現在地と、それに導かれるように描かれた大きな宝箱のマーク――
「(……え? 魔力反応もあるし、これ、誰か本気で作ったやつじゃ……?)」
ミイは最初、いつものクレヨンやえんぴつで描いた“ごっこ遊び”だと思っていたが、目の前の魔皮紙には明らかに魔法的な術式が組み込まれていた。
「ここの……外、だよ?」
宝箱の印は、モグリ邸の敷地の外を指していた。
「そうですっ! そこで、ミイちゃんにだけ、ユキの“とっておき”を教えてあげるです!」
「“とっておき”……?」
「はいですっ!」
そのとき。
「こーらー……またユキちゃんは、ナイショで変なことしてるんじゃないのー?」
「!!」
――後ろから、優しいけどちょっぴり呆れたような声がして、ユキはびくんと肩を跳ねさせた。
いつのまにか背後に来ていたのは、姉のような存在、ドーロだった。
「な、なんでもないですですっ!!」
ユキは慌てて魔皮紙を背中に隠しながら、しどろもどろに言い訳する。
「ふふー? 怪しいな〜〜ユキちゃん〜〜」
ドーロは目を細めて、にんまりと笑った。
「ふ〜ん〜? 見せて〜?」
「な、なにがですかっ?」
ドーロはニコニコしながら手を差し出してくる。
「ほら〜? ユキちゃんが、後ろに隠したものよ〜?」
「うぅぅ……」
ユキは渋々、魔皮紙を差し出す。
ドーロはそれを受け取って、くるくると指先で回しながら軽く眺め、
「ふ〜ん〜……」
とだけ呟くと、すぐにユキに返してきた。
「(え!? な、なんで!?)」
ミイが困惑する中、ドーロは軽く笑ってこう言った。
「ちゃんと掘ったら、手ぇ洗うのよ〜?」
「はいですーっ!!」
ドーロはそのまま、くるくると踊るように去っていった。
ミイは唖然としながら、ユキに尋ねる。
「ど、どうして……バレなかったの?」
するとユキは、胸を張ってぴょんと飛び跳ねた。
「ふふんっ♪ 先生に見せたのは、これです!」
そう言って見せた魔皮紙には、手書きのぐにゃぐにゃした線で「ここに宝です!」と書かれた、いつものお絵描き地図が広がっていた。
「い、いつの間に……!」
「前に『飴のお兄さん』からもらったの、先生に取り上げられちゃいましたですから! こういうこともあろうかと、ですっ!」
「す、すごい……」
「へへーん♪ ユキは学ぶ子なんですっ!」
ミイが思わず拍手をしそうになるほど、完璧なすり替えだった。
先生にとっては頭の痛くなるような話だが、今回は完全にユキの悪知恵の勝利。
「作戦は……今日、みんなが寝たあと、ですっ!」