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第330話 宝の地図

 《モグリ邸》


 みんながワイワイと庭で遊び騒ぐ中、端っこの生け垣の影で、金髪の少女ふたりがひそひそ声で顔を寄せ合っていた。


 「いいですか、みーちゃんっ! この“たからのちず”は……ほんもの、なんですっ!」


 そう言って、ユキは小さく折りたたまれた魔皮紙を取り出し、大げさに“シーッ”のジェスチャー。


 「ふふっ……ほんとかなぁ?」


 少しだけ年上のミイは困ったように眉を下げて微笑む。

 彼女のその様子は、“まあまた始まったか”という、どこか慣れた反応だった。


 ふたりは同じ人物を密かに――けれど堂々と――憧れているという共通点があり、自然と気が合うようになった。

 だから今日も、こうして一緒にいる。


 「ほんとですってばっ! 今度こそ見つけて、見せるんですっ……!」


 どんなときも、遊びの主導権はユキにある。

 その勢いに押されて、ミイが根負けするのがいつものパターンだ。


 今回も例に漏れず、「宝の地図ごっこ」ということで――


 「わかったよ、それで……どこにあるの?」


 「ここですっ!」


 ユキは得意げに魔皮紙をビシィッと広げた。

 羊皮紙のようなその紙には、自分たちの現在地と、それに導かれるように描かれた大きな宝箱のマーク――


 「(……え? 魔力反応もあるし、これ、誰か本気で作ったやつじゃ……?)」


 ミイは最初、いつものクレヨンやえんぴつで描いた“ごっこ遊び”だと思っていたが、目の前の魔皮紙には明らかに魔法的な術式が組み込まれていた。


 「ここの……外、だよ?」


 宝箱の印は、モグリ邸の敷地の外を指していた。


 「そうですっ! そこで、ミイちゃんにだけ、ユキの“とっておき”を教えてあげるです!」


 「“とっておき”……?」


 「はいですっ!」


 そのとき。


 「こーらー……またユキちゃんは、ナイショで変なことしてるんじゃないのー?」


 「!!」


 ――後ろから、優しいけどちょっぴり呆れたような声がして、ユキはびくんと肩を跳ねさせた。


 いつのまにか背後に来ていたのは、姉のような存在、ドーロだった。


 「な、なんでもないですですっ!!」


 ユキは慌てて魔皮紙を背中に隠しながら、しどろもどろに言い訳する。


 「ふふー? 怪しいな〜〜ユキちゃん〜〜」


 ドーロは目を細めて、にんまりと笑った。


 「ふ〜ん〜? 見せて〜?」


 「な、なにがですかっ?」


 ドーロはニコニコしながら手を差し出してくる。


 「ほら〜? ユキちゃんが、後ろに隠したものよ〜?」


 「うぅぅ……」


 ユキは渋々、魔皮紙を差し出す。

 ドーロはそれを受け取って、くるくると指先で回しながら軽く眺め、


 「ふ〜ん〜……」


 とだけ呟くと、すぐにユキに返してきた。


 「(え!? な、なんで!?)」


 ミイが困惑する中、ドーロは軽く笑ってこう言った。


 「ちゃんと掘ったら、手ぇ洗うのよ〜?」


 「はいですーっ!!」


 ドーロはそのまま、くるくると踊るように去っていった。


 ミイは唖然としながら、ユキに尋ねる。


 「ど、どうして……バレなかったの?」


 するとユキは、胸を張ってぴょんと飛び跳ねた。


 「ふふんっ♪ 先生に見せたのは、これです!」


 そう言って見せた魔皮紙には、手書きのぐにゃぐにゃした線で「ここに宝です!」と書かれた、いつものお絵描き地図が広がっていた。


 「い、いつの間に……!」


 「前に『飴のお兄さん』からもらったの、先生に取り上げられちゃいましたですから! こういうこともあろうかと、ですっ!」


 「す、すごい……」


 「へへーん♪ ユキは学ぶ子なんですっ!」


 ミイが思わず拍手をしそうになるほど、完璧なすり替えだった。

 先生にとっては頭の痛くなるような話だが、今回は完全にユキの悪知恵の勝利。


 「作戦は……今日、みんなが寝たあと、ですっ!」

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