「リュウトさん、グリードの女王から連絡がありました、城まで来てほしいみたいです」
「解った、こっからグリードの国までどれくらいになる?アカネ」
リュウトはさっき倒した《マウンテンマモス》の肉を手際よく解体しながら聞いた。
みんなで食べるぶんだけ確保し、残りはギルドに送るつもりなのだろう。
「そうですね、ここからだと《ダイヤエースタウン》が近いので、そこのギルドから《クインズタウン》に行けば四日でつくと思います」
「よし、ならそれで行こう」
「はーいっ!」
あーたんが元気いっぱいに跳ねるように返事をする。
「……」
リュウトの手がふと止まり、視線が遠くなる。
その様子に気づいたアカネが、そっと声をかけた。
「どうしたんですか?リュウトさん」
「いや、なんか寂しくなったなって思ってな」
今リュウトのパーティーはアカネとあーたんしかいない。
「仕方ないですよ、リュウトさんは魔王を倒したんですから、戦いは終わったんです」
「そうだな......」
「ますたーは、あーたんたちじゃダメー?」
「ふふ、そんなことないよ......さ、行くぞ」
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「ヒロユキさん! ミクラル城から連絡がありました。どうやら……用事があるので、来てほしいみたいですが?」
「……」
返事はない。ただ静かに、岩に腰掛けたまま、ヒロユキは自身の【黒刀】をゆっくりと研ぎ続けていた。
「ユキの姉貴、それならミーだけ行って内容聞いてこようか?」
「ジュンパク、それでもいいんですけど――久しぶりに、みんなでミクラル行くのも楽しいと思うんですよ、私は」
「確かに兄貴が【魔王】倒してからは、ずっと《開拓》してたし。人がいる町なんて、めっちゃ久しぶりじゃん! 流石ユキの姉貴! そこに気づくとは!」
「町、肯定、行く」
「そ~ね~、姉にも会っときたいし~」
「では、用事が済んだら久しぶりにミクラルで遊びましょう! ――てわけで、ヒロユキさん!」
「……行こう」
「この近くだと《モルノ町》が最寄りですね。そこからギルド転移で《ナルノ町》へ行きましょう!」
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《グリード城》
「女王様、準備を――」
女性用の騎士服に身を包んだ代表騎士代行・タソガレは、繊細な装飾が施された車イスを静かに押しながら、サクラ女王の私室へと入ってきた。
「ケホッ……えぇ、わかったわ……」
サクラ女王の表情はやつれ、頬もげっそりとこけている。
タソガレは何も言わず、凛とした所作でベッドに近づくと、女王をそっと抱き上げる。
「……あなたには、迷惑ばかりかけるわね」
「いえ、私は騎士です、主君の役に立てるだけでも光栄です」
「ありがとう」
「......」
「……さて、と」
サクラ女王は、静かに息を吐きながら手をかざす。魔力に反応して、車イスがゆるやかに動き出した。
現在のサクラ女王の身体は、重い病に蝕まれ、もはや自力で立つことすら叶わない。執務も寝台の上でこなす日々が続き、かつての鋭さも、徐々に鈍りはじめていた。
けれど――
「【王国会議】……やっと、この日が来たわ」
その声には、弱さとは裏腹の確かな意志が宿っていた。
「はい」
「初めて行く【王国会議】……私にとっては最初で最後になるかもしれないけれど……これでやっと、父が――なぜ、あんなことをしたのかが解る」
静かに呟いたサクラ女王の声には、微かな震えと深い覚悟が滲んでいた。
「タソガレ。キールが不在の今、あなたに私の護衛を任せるわ。……馬車を、用意しなさい」
「――わかりました」
タソガレが去っていくその背を見送りながら、サクラ女王はふっと小さく息を吐いた。
その刹那――
「……ッ、ケホッ……!」
こみ上げる咳と共に、赤い液が唇を濡らした。
(お願い……もう少し……もう少しだけ、私の身体……もって)
指先が震える。だが、女王の瞳は決して揺らがない。
____真実を知るために。