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第332話 何かが起こる予感

 「リュウトさん、グリードの女王から連絡がありました、城まで来てほしいみたいです」


 「解った、こっからグリードの国までどれくらいになる?アカネ」


 リュウトはさっき倒した《マウンテンマモス》の肉を手際よく解体しながら聞いた。

 みんなで食べるぶんだけ確保し、残りはギルドに送るつもりなのだろう。


 「そうですね、ここからだと《ダイヤエースタウン》が近いので、そこのギルドから《クインズタウン》に行けば四日でつくと思います」


 「よし、ならそれで行こう」


 「はーいっ!」


 あーたんが元気いっぱいに跳ねるように返事をする。


 「……」


 リュウトの手がふと止まり、視線が遠くなる。

 その様子に気づいたアカネが、そっと声をかけた。


 「どうしたんですか?リュウトさん」


 「いや、なんか寂しくなったなって思ってな」


 今リュウトのパーティーはアカネとあーたんしかいない。


 「仕方ないですよ、リュウトさんは魔王を倒したんですから、戦いは終わったんです」


 「そうだな......」


 「ますたーは、あーたんたちじゃダメー?」


 「ふふ、そんなことないよ......さ、行くぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ヒロユキさん! ミクラル城から連絡がありました。どうやら……用事があるので、来てほしいみたいですが?」


 「……」


 返事はない。ただ静かに、岩に腰掛けたまま、ヒロユキは自身の【黒刀】をゆっくりと研ぎ続けていた。


 「ユキの姉貴、それならミーだけ行って内容聞いてこようか?」


 「ジュンパク、それでもいいんですけど――久しぶりに、みんなでミクラル行くのも楽しいと思うんですよ、私は」


 「確かに兄貴が【魔王】倒してからは、ずっと《開拓》してたし。人がいる町なんて、めっちゃ久しぶりじゃん! 流石ユキの姉貴! そこに気づくとは!」


 「町、肯定、行く」


 「そ~ね~、姉にも会っときたいし~」


 「では、用事が済んだら久しぶりにミクラルで遊びましょう! ――てわけで、ヒロユキさん!」


 「……行こう」


 「この近くだと《モルノ町》が最寄りですね。そこからギルド転移で《ナルノ町》へ行きましょう!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《グリード城》


 「女王様、準備を――」


 女性用の騎士服に身を包んだ代表騎士代行・タソガレは、繊細な装飾が施された車イスを静かに押しながら、サクラ女王の私室へと入ってきた。


 「ケホッ……えぇ、わかったわ……」


 サクラ女王の表情はやつれ、頬もげっそりとこけている。


 タソガレは何も言わず、凛とした所作でベッドに近づくと、女王をそっと抱き上げる。


 「……あなたには、迷惑ばかりかけるわね」


 「いえ、私は騎士です、主君の役に立てるだけでも光栄です」


 「ありがとう」


 「......」


 「……さて、と」


 サクラ女王は、静かに息を吐きながら手をかざす。魔力に反応して、車イスがゆるやかに動き出した。


 現在のサクラ女王の身体は、重い病に蝕まれ、もはや自力で立つことすら叶わない。執務も寝台の上でこなす日々が続き、かつての鋭さも、徐々に鈍りはじめていた。


 けれど――


 「【王国会議】……やっと、この日が来たわ」


 その声には、弱さとは裏腹の確かな意志が宿っていた。


 「はい」


 「初めて行く【王国会議】……私にとっては最初で最後になるかもしれないけれど……これでやっと、父が――なぜ、あんなことをしたのかが解る」


 静かに呟いたサクラ女王の声には、微かな震えと深い覚悟が滲んでいた。


 「タソガレ。キールが不在の今、あなたに私の護衛を任せるわ。……馬車を、用意しなさい」


 「――わかりました」


 タソガレが去っていくその背を見送りながら、サクラ女王はふっと小さく息を吐いた。


 その刹那――


 「……ッ、ケホッ……!」


 こみ上げる咳と共に、赤い液が唇を濡らした。


 (お願い……もう少し……もう少しだけ、私の身体……もって)


 指先が震える。だが、女王の瞳は決して揺らがない。



 ____真実を知るために。



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