【ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあの時の記憶』
――俺は、夢を見ているような感覚だった。
『…………』
「クォ?」
何も言わずに立ち上がると、ヒロスケがきょとんとした可愛い顔でこちらを見つめてくる。
『おはよ♪ ヒロスケ』
気さくに声をかける“俺”。
だが。
(……俺は知らない、この記憶を)
「クォォ……」
『あら?わかるんだ? 中身が違うこと』
ヒロスケは異変に気づいて、俺――ではない“俺”から距離を取って警戒する。
「クォー! クォ!」
『なにぃ? アオイちゃんに話しかけてるの? キャハッ、かわいいねぇ♪』
目の前のヒロスケは、必死に鳴いていた。
まるで“女神”じゃなく、“俺”に――アオイに、呼びかけているように……
『黙りなさい』
「クォ!?」
『いいこ、いいこ♪』
何かに縛られたように動けなくなったヒロスケを、『私』は優しく撫でる。
『ね? 私の魔力を受けて成長したあなたは、他より特別な生命体なの。……でも残念。ここであなたが死なないと――』
『【物語】が進まないのよ♡』
「ク、クォ!」
『あら? すごーい♪ 生まれたばかりなのに、私の魔力に逆らって動いたの?』
ヒロスケ! いいぞ、そのまま逃げろ!
この先どうなるか、俺は知ってる。
それでも目の前で怯えて逃げ惑うヒロスケに、叫びたくなる。
――だけど……無駄だ。
「ク、クォー……」
『追いかけっこ、楽しかったねぇ♪』
「クォ!」
『!?』
ヒロスケは、最後の最後で『私』に飛びかかろうとした。
だが――
「クォー……っ……」
『キャハッ♪ そうよ、そうよ! そうよねぇ? だってこの身体は、あなたのだぁいすきな【アオイ】ちゃんの身体だもの♡ 傷つけられるはずないわよねぇ♪』
ヒロスケ……。
「ク、クォー……クォー……クォーィ……」
……ヒロスケが、“俺”に呼びかける。
「クォーィ……クォィ……」
ヒロスケ……ヒロスケ……ごめん、ごめんな……。
『ヒロスケちゃん♪ あなただけじゃないのよ?
人間は命を奪って命を繋げてる。それはみーんな一緒。魔物だって人間を食べるでしょ?
だから――恨みっこなし、ね?♡』
そう言って、『私』は無力になったヒロスケを動物の屠殺用具に固定する。
「クォ……イ……ォ……ィ」
ヒロスケ……やめろ……やめてくれ……
『えーっと、確かこうやって手を合わせて……
すべての命に感謝して――』
――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!
『いただきます♪』
【ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』