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第347話 いざ、洞窟へ!

 「大丈夫ッチュ?」


 「な、なんとか……」


 俺は必死に吐き気をこらえていた。今回もまた……壮大に吐いてしまった。


 「トラララ、こっちの残り二匹も片付いたぞ」


 トラ五郎とウシ沢さんも駆けつけてくれたようだ。

 魔物は、とりあえず食べる分だけ捌いてテントへ転送し、残りはギルドへ送ってくれたらしい。


 気分が少し落ち着いてから、後ろを振り返ると……もう死骸は片付けられていて、何も残っていなかった。


 「しかし、本当に苦手ッチュね? 仮面で表情は見えないッチュけど、見えてる部分は真っ白ッチュよ」


 いまの俺の仮面は、食事用の形態に切り替わっていて口元が見える状態だった。

 最初のころは、間に合わず仮面の中がゲロまみれになることも多かったけど、いまは“吐く前に切り替える”ことに慣れてきた。


 ……いや、こんなのに慣れるくらいなら、あのグロい光景に慣れたいって?

 ――無理だ!


 「大丈夫。もう平気……それに、みんな助けてくれてありがとう」


 俺がそう言うと、三人は心配そうな顔でこちらを見つめていた。


 「……やっぱり、沼大蛇のとこには……」


 「い、いや、行けるよ!」


 チュー太郎さんが、予定を変えようかと提案しかけたのを、慌てて遮る。


 せっかく今まで、俺ががんばって信頼を積んできて――ようやく“みんなから誘ってもらえる存在”になれたのに……

 それを無駄にしたくない。


 俺のついていった依頼は百パーセント成功する。

 ――そのレッテルは、絶対に崩しちゃダメなんだ。


 また、仕事がなくなって、稼げなくなったら……

 ――俺、生きていけなくなるんだよ。


 「そ、そうチュ? 本当に大丈夫かッチュ?」


 「うん!」


 「トラララ! いいじゃないか、本人が言ってるんだ!」


 おおっ、トラ五郎さん……!


 「期待してるトラ」


 そう言って、トラ五郎さんはもうこれ以上話すことはないとばかりに、すたすたと歩き出す。


 「まったく……あいつは何も考えないッチュね」


 「ウッシ! そうと決まれば行くウッシ」


 二人とも、そのまま何事もなかったかのように沼の奥へ進んでいった。


 「…………」


 人間嫌いの獣人が多いって聞いてたけど……

 実際にこうして一緒に行動してると、なんだか、すごく“普通の人たち”なんだよなぁ……


 俺はそっと仮面を元の形に戻し、彼らの背中を追って歩き出した。




 ―――――――――――――――――――――――――――


 「ついたッチュ!」


 数時間、休みなしで歩き続けたけど……不思議と、いまのこの“獣人化”してる状態だと、体のあらゆるところが強くなってる気がして、そこまで辛くなかった。


 ――師匠のおかげです!


 それにしても――


 「ここが……入り口?」


 目の前にある洞窟の入口は、どこまでも広くて、深くて……

 奥の方は真っ暗で、何も見えない。ぼんやりと冷たい空気だけが、地面を這うように流れてきていた。


 「そうッチュ。この季節になると、この《蛇ドラ洞窟》には【沼大蛇】がどこからともなく現れるッチュ。

 奴らは夜行性で、夜になると外にいるアヤカシを捕食しに出てくるッチュ。だから今は――寝てるッチュ」


 「トラララ。さらに、この中の湿度や気温は《モロシイタケ》にとって完璧トラ。

 だからこそ、【忍者】であるアオイの出番トラ」


 「なるほど……確かに条件は揃ってますね」


 俺は仮面越しに洞窟の奥を覗き込んだ。

 でも、すでに時刻は14時を過ぎている。モタモタしてると、“夜行性”の沼大蛇とやらが活動を始めてしまうのだろう。


 「噂が噂になるのは、実績があるからッチュ。

 特に冒険者の噂っていうのは見極めが大事ッチュ。でないと誰の得にもならないッチュからね。

 信用ってより――チューは“実績”を見てるッチュ」


 「……フフッ」


 心の奥が、ぽっと温かくなった。

 信じてくれるって、それだけで、救われる気がする。


 「じゃあ――気合い入れるッチュよ! 行くッチュ!」


 そのまま、俺たちは巨大な口を開けたような暗い洞窟へ、静かに足を踏み入れた。








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