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第381話 アオイサイド

 遠くで巨大な隕石がピラミッドに衝突し、砕け散った瓦礫と一緒にアヌビス兵たちが吹き飛ぶ――それを背後に見ながら、俺は正面から軍の中へ突っ込んでいた。


 「はぁぁあっ!【魂抜き】!」


 まずは一人! そっちのあんたも甘い! 二人目!


 「おらぁっ!」


 「無駄ぁ!」


 長槍を突き出してきた兵士の一撃を、俺は【流し】でいなす。反動のまま膝を跳ね上げ、顎を蹴り飛ばす! 空中で体勢を整えながら回転――って、なんでこんな事できんのかって?


 それが異世界の勇者ってもんよ! イメージさえできれば、体が勝手に動くんだよね!


 「それに……残念だったなっ! このスカート、魔法で重力制御されてるから、空中でどれだけ回転しても俺のパンティは見えないのだ!!」


 「は?」


 静寂。


 あれ? なんか周りが一瞬止まった? 俺、時間停止魔法なんて使えたっけ?


 「何をワケのわからないことを……! 撃て!やれぇっ!」


 「うわっ! ちょ、やめ、来すぎ!」


 次々と飛んでくる魔法の矢と火球。ユキさん特製の【ファイアードーム】で物理系の飛び道具――矢、大砲、石なんかは全部焼き尽くせるけど、魔法だけは抜けてくる!


 「ほっ、はっ、とぅっ! 見える……見えるぞ……! 私にも、なんとやらがァァァ!」


 だが今の私は3倍の早さなのだ!お酒で!

 フハーハハハ!! もはや俺の視界は○トリックス!! 敵の攻撃軌道がスローモーションに見える! いや、むしろ感覚で“来る”のが分かる!


 「酔ってテンション上がってる俺を、止められると思うなよっ!!」


 魔法の攻撃を軽やかにかわしながら、俺は再び軍の中へ一直線に突っ込んでいく。

 すると今度は、仲間への誤射を避けるつもりか、全員が一斉に俺を狙って斬り刻みに来やがった。


 うわっ……剣が一斉にこっち向いてくるとか、やめろや! 軽くトラウマ蘇るだろがぁ!


 「剣を俺に向けるなって言ってんだよ!! 全部まとめて、はたき落としてやるッ!」


 殺到する剣の群れ。俺は低く構えて一人の股下を滑り抜け、そのまま背後から首トンで【魂抜き】発動――はい、戦闘不能!


 できた隙間に滑り込んで、次、さらに次!


 「ほんっ、とっ、こっちが、少人数、なのにっ! なんで、こんな、大軍、相手にっ! 真っ向勝負してんのっ!」


 攻撃を避けながらだから、文句もブツ切りになるけど、それでもテンション上がって止まらない。

 一人ずつ、確実に気絶させていく!


 「なんで攻撃が当たらないんだ!?」


 「身体強化してるはずなのに……!」


 「くそっ、くそっ、くそおおっ!」


 うるせぇわ! こっちだって本気で普段使わない脳ミソフル回転させてんだ!

 そっちが諦めろっつーの!


 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁあッ!!」


 ……ああ、この台詞言ってたキャラの気持ち、今ならめっちゃわかるわ……


 テンションだ! テンションを上げろ、アオイ!


 ここまで来たらもう、やるかやられるかだ!!


 「――そろそろ、か!」


 俺は【糸】に魔力を通した。


 ビンッと反応したそれは、瞬時に兵士たちの体へと絡みつく。


 「な、なんだこれは!」


 「くそ!切れねぇ!」


 完成、簡易型の【目撃縛】。

 ……って言っても、実際は俺が通ってきた道に糸を巡らせてただけで、それに魔力を流してピーンと張っただけのやつだ。

 冷静になって力で抜け出されたら終わり。だけど――


 切れない糸っていうのは、それだけで戦場じゃ反則級なんだよ。


 「後は……!」


 まだどうにか抜けようとしている兵士たちを横目に、俺はその糸を操りながら、攻撃を避けつつ敵の周囲をぐるぐると円を描くように走り抜ける。


 「まとめるッ!」


 【糸】に再び魔力を流し込むと、それが収縮するようにして数十人の兵士たちを一気に締め上げて拘束する。


 ――あれだ、帝国の逆襲とかシビルウォーの蟻に蜘蛛男がしたアレ!



 「まだまだ行くぞぉぉおおお!!」


 数なんて関係ない。

 酔ってテンション上がった俺を止められるわけがない!


 果てしなく広がる戦場。

 まだまだ終わりは見えそうにない。


 目指すは――ピラミッド内部!!




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