「ぐわぁぁあ!? 入口も無くなってるぅ!?」
ずーーーーーーーーーっと真っ直ぐなトンネルを歩いてたんだよ!?
でも終わりが見えないから、引き返してみたんだけど……。
「戻っても、また真っ直ぐぅ!? なんでぇぇえ!? これ出口に帰れない系じゃん!」
僕、ほんとに真っ直ぐにしか歩いてないよ!?
なのに、どこまで行っても真っ直ぐ……なんかこう、軽くホラー入ってるんですけど!
……ていうか、物理的にそれおかしくね?
でも、ここ異世界だし。そもそも“物理的”とか通じないのか……。
うーん……じゃあこれは……えーと、“魔法的に理不尽”ってことで――
「命名っ!《まほりてき》ってことでどう!? ……いやもうマジで笑えないんだけど!」
「って、んなこと考えてる場合じゃない!! そ、そうだ、こういうときのために――」
俺は慌てて裏胸ポケットから、通信用の魔皮紙を引っ張り出した。
頭の中では猫型ロボタヌキが道具出すときの例のBGMが脳内再生されてる。ぱっぱらぱーん♪
「本来は“魔王を見つけたときに使え”って言われてたけど、危険なときにも使っていいって話だったし……今がそのときだよね!? いざっ!!」
ちなみにこの魔皮紙、一般流通なんかしてない。まだ魔法軍の実戦テスト中の最新型!
……やっぱどこの世界でも、最先端技術は軍用からなのねーとか思いつつ――
「わぁ〜……なんか、ガラケーからスマホになったとき並みのワクワク感あるわぁ……って、あれ?」
……おや?
「反応しない!? えっ、なんで!?!?」
冷や汗だらだら。魔皮紙をひらひら振ってみたり、シワを伸ばしてみたり。
何度も魔力を通す。でも――
「いや通ってるはずなのに!? ねぇ、なんで!? こーゆーときに限って壊れてるとか、ホントやめてぇぇぇ!!」
「てか! これ反応しなかったら、ほんとに万事休すなんだけどぉ!?」
も、も、も、もちつけ俺!
……胸はもちみたいについてるけど! 俺は男! ……じゃなくて!!
「ふぅ…………よし。状況の整理だ」
──1、入口も出口もない、真っ直ぐな道に閉じ込められてる。
──2、通信用魔皮紙が使えず、外部と連絡が取れない。
──3、外では、みんなが戦ってる。
「……よ、よし。外にみんないるなら……きっと助けに来てくれる……はず」
…………なのに、なんだろう。この気持ち。
情けないというか、恥ずかしいというか……。
本音を言えば、ここまで来て“お荷物”にはなりたくない。
「……それに、この状況……山亀の中にいたときのこと、思い出す……」
──あのときは、数日……いや、一週間くらいだったか。
山亀の背にできた洞窟の中。飲み水も食料もなくて、
服に染み込ませた天井からの雨水を絞って飲み、
生えていた黒いバラの花びらを、渋い顔で口に運んで……。
ギリギリで、ほんとにギリギリで、生き延びて。
そして、やっと……助けてもらった。
「あの時は、本気で餓死するかと思ったっけ……。
でも、あのときと違って、ここには水も花もない……あるのは、石と砂だけ」
そして、もし……外の人たちが、全員やられてしまったら?
俺はこのまま、ここでどうなる?
たぶん――これは罠だ。
侵入者を閉じ込めて、餓死させるための。
「つまり……これって、もしかしなくてもここで人生エンド?」
いやいやいや! だめだだめだ!
負けたときのことなんて考えてどうする!
「男ってのは、負けた時のことは考えないもんなの! ……身体は女だけど!!」
そうだ。
俺はあのときとは違う。
あのときより、ずっと強くなった!
「状況は同じでも……僕は違う! 精一杯やってやる! 【武器召喚』!」
空中に魔法陣が展開し、一本の【糸』がすうっと引き出される。
「……この状況を、変えたい。どうすればいい……?」
いつもなら、俺の思考に合わせて糸が動く。
けど今は――わからない。何をどうすればいいか、全く浮かばない。
だから、ダメ元で――声に出して、頼んでみる。
「……やっぱり!」
糸は、スルリと動いて――空中に“矢印”を描いた。
まるで、俺に「こっちだよ」と道を示すように。
「……わかった。そっちだね」
俺は静かに頷き、糸の示す方向に――ゆっくりと、後ろを振り返る。
「……後ろ?」
一歩、二歩。
歩き出すたびに、糸は壁際へと向かっていき――最後には、ある一箇所をピタリと示し、そのまま矢印の形で壁の中へと消えていった。
「この壁……何か、ある?」
恐る恐る、手を当ててみる。
すると――
「お?」
手のひらから、微かに魔力を吸われる感覚があった。
例えるなら、掃除機のホースの先に指を突っ込んだときの、軽い“すいっ”てやつ。
「……ってことは、もしかして……」
俺は、その壁に掌を当てたまま――意識を集中し、魔力を流し込む!
じわじわと。
空間が、歪み始めた。
「……よし! じゃあ――全力だ!!」
身体の中を巡る魔力を操作して、両手の先に一気に集中させる。
目の前の空間が激しく揺らぎ、視界がぐにゃぐにゃに歪んでくる。
見てると酔いそうだから、俺は目をギュッと閉じて、さらに魔力を流し込む。
――限界まで、流す!!
その瞬間。
*バァン!!*
大きなガラスが砕けるような音が、辺りに響いた。
そして――
「っ……!」
手の感触から、“壁が消えた”のが、分かった。
「や、やった……っ……え?」
目をゆっくり開ける。
変わっていた。空気も、雰囲気も、匂いも……全部が。
そして――その視界に飛び込んできたのは。
「……こ、これが……天秤……」
見上げるほどの巨大な天秤が、目の前に鎮座していた。