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第403話 神の使者パーティー

 《クローバー村 キール家》


 「で? どうだった? キーくん」


 現在、キールの小さな家のリビングには――

 元パーティーメンバーのルコサ、クロエ、オリバル。

 そこに元魔王のアビ、そして紅茶を勝手に入れてるルダが加わり、部屋はぎゅうぎゅうだった。


 「ルコの言う通りだった……私は、勇者との“差”を思い知らされたよ」


 言葉ににじむ悔しさを察し、クロエがずずいと前へ出て、


 「けっ。まぁ、あんだけ力持ってんのに、なんで俺らが導かなきゃなんねぇんだよ。まーじ殺してぇよな、勇者ってやつァ」


 と、クロエなりのフォローをぶちかます。


 「まぁ、わかってると思うけど――魔王と戦うのは、相性。

  僕たちの役目は、相性の良い“勇者”をそっと導いて勝たせること」


 そう言ってルコサは穏やかに笑う。


 「今回はルコの言う通りヒロユキ殿を導いていたら、アオイさんも現れた……それも“計画通り”なのか?」


 「はは、さすがキーくん。鋭いなぁ……。

  でもね、正直に言うと――【アオイちゃん』の登場は、神のお告げにはなかったんだ」


 「どういうことだ?」


 「前に話したでしょ? 今の【アオイ』は、神の理を外れて動いている。

  人間っていうのは、生まれた瞬間から“神の流れ”に沿って運命を辿るものなんだけど――彼(彼女?)は、その流れを『潜り抜けてくる』」


 「つまり、【アオイ』は――」


 「いや、まだ断定はできない。

  【アオイ』には、神に匹敵するほどの“力”は、まだない。

  ただ……今は、それよりも重要なことがあるよね?」


 ルコサは静かに、けれどしっかりと皆を見渡す。


 「みんなも今回で、はっきり分かったんじゃないかな?

  ――【勇者】の力は、自分たちとは“格が違う”ってことを」


 ここにいる全員が、かつて“強者側”だった者たちだ。

 だがその誇りは、今回の件で根底から揺さぶられた。


 そしてそれこそが、ルコサの目的。


 ――“勇者に敵わない”という、否応なく突きつけられた現実。

 それを“見せつける”必要があった。


 なぜなら、ルコサには分かっていた。


 この場にいる全員が、心のどこかでこう思っていたことを。


 ――“自分たちなら、勇者にも負けない”。


 けれど、現実は違った。


 “キール”という、自分たちの中でもっとも力を持っていた者が――

 魔王に対して、まるで歯が立たなかった。


 それを千里眼で“全員が目撃した”。


 そして、“その魔王”を――ヒロユキが、圧倒的な力で“ねじ伏せた”。


 その違いは、もはや誰の目にも明白だった。


 「これで、昔を思い出せるね」


 「「「……?」」」


 「僕たちってさ、元々そんな強くなかったでしょ? ずーっと四人で力を合わせて、魔物を狩ってきた……そうだったよね? キーくん」


 「あぁ。そうだな」


 「でもさ――いつからか僕ら、“中途半端な力”を手に入れて、何でも一人で出来るつもりでいた。

  だけど、その“上”が現れた瞬間、全部ひっくり返された。

  じゃあ、どうするか……って話だよ」


 そう言うとルコサは、懐から一枚の魔皮紙を取り出し、光を通して“何か”を具現化させる。


 カラリ――


 音を立てて、テーブルの上に転がったそれは……小さな、そしてどこか年季の入ったバッヂだった。


 「これは……」


 「おいおいおい……ルコさん、こんなモンまだ持ってたのかよ」


 「俺のは、まだ鞄に挟んであった気がする……」


 そのバッヂを見た瞬間、キール、クロエ、オリバルの三人は懐かしさに息をのむ。

 それは――


 “左右に大きく翼を広げた、燃え盛る鳥”を、

 “二本の黒剣”が斜めにクロスしている紋章。


 見れば、見るほどに……胸の奥がくすぐったくなる記憶の品だった。


 「何さね? この安物バッヂは」


 ルダは首を傾げながら裏返したり、刻印をじっと見つめたりして、無意識にルコサへ尋ねた。


 「それはね――僕たちがまだ若くて、右も左も分からなかった頃の……初めての“パーティーシンボル”だよ。

  当時、最強と呼ばれたパーティーがいてさ、“その座を奪ってやる”って、意味を込めて作ったんだ」


 「ふーん、それでこの羽がムダに派手で、黒剣がクロスされてるのかさね……なるほどねぇ~」


 「ちなみに、そのデザイン考えたのは、クロエ」


 「ちょっ、言うなよっ……!」


 クロエは頬を赤く染め、バッヂから目をそらす。


 「ルダ、返して?」


 「ほいさね、若いってのはえぇもんさね~。昔、私も――」


 「いや、おばあちゃんの昔話は今パス」


 「何さね!年寄りの話は良く聞けって、親に教わらなかったかさね!」


 「はいはいっと」


 ルコサは苦笑しながら魔皮紙を取り出し、バッヂを包む。

 古びたそれはゆっくりと魔皮紙に溶け込んでいき――ルコサの腕へと転写された。


 「……僕たちは今日、今、ここから、新たなパーティーとして生まれ変わる」


 そう言って魔力を流すと、彼の腕に浮かび上がったのは――


 黒剣が交差する十字紋章。


 「これが新しい僕たちのパーティーシンボル。

  《この世界を救う意志》って意味も込めて十字架なんだけど、どう?」


 「私はよいと思うぞ、ルコ」


 「ありがと、キーくん」


 「ま、ルコさんにしては上出来じゃん」


 「少なくとも、昔のマークでイキってたクロよりマシ……」


 「は? なんだとオリバル!? 殺すぞッ!」


 わいわいとやり取りしながら、それぞれが順番に魔皮紙を受け取り、腕へと新たな紋章を刻んでいく。


 やがて四人全員が付け終えると、ルダにも手渡した。


 「……私さね?」


 「ああ、君も一員だ」


 「わ、私は冒険者だったこともないし、パーティーで戦ったこともないさね……それに……」


 ルダは、珍しくしおらしく言葉を詰まらせる。

 どこか、場違いに感じてしまったのだろう。

 だが――その空気を切ったのは、意外にもクロエだった。


 「……ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと付けろよ」


 「!?」


 「んだよ、文句あんのか?」


 「ふ、ふん、どうなっても知らないさね……!」


 ぷいっと横を向いたルダは、制服のスカートをたくし上げ、スラリと伸びた太ももに魔皮紙をピタリと当てる。


 「フッ……」


 「オリバ!なんか言いたいことあるならハッキリ言え!殺すぞ!」


 「いや……良いものだな、ってだけだ……」


 「チッ……」


 「二人ともー、ケンカは後にして。ほら、まだ一人付けてない奴がいるよー?」


 ルコサはルダから魔皮紙を受け取ると、壁に寄りかかったまま沈黙している人物へと目を向けた。


 ――元魔王、アビ。


 「ねー、てことでどう? 元・魔王さま」


 「断る。貴様らには俺の民が人質に取られている。仕方なく協力しているにすぎん」


 「うんうん、それ言うと思ってた。だからね、実はこれ……付けると“ちょっと得する”神の魔法がかかってるって言っとくよ?」


 「何……?」


 「気になる? 気になるよね~。いっぱいあるけど、君にとって一番魅力的なのを教えてあげる」


 ルコサが微笑む。


 「……君の【封印されてる魔眼】。タイミング次第じゃ、一時的に使えるようになる、かも?」


 「……何だと!?」


 アビの目が鋭く見開かれる。

 かつて魔王として恐れられた“時を止める魔眼”――

 それを再び使えるかもしれないという言葉は、彼にとって甘い毒に等しい。


 「じゃ、これ。持ってて。付けるかどうかは、君の自由だよ」


 ルコサは柔らかく魔皮紙を差し出す。


 「……」


 アビはしばらく無言のまま魔皮紙を見つめ、そしてそれをポケットへとしまった。


 「ちなみにこれ、七個マークが付いたら自動で消滅するから、後処理もバッチリ。……さてっと」


 ルコサは腰に手を当て、みんなを見渡す。


 「じゃあ――みんな!」



 「次に動く前に、久しぶりに“親睦”でも深めようか。飲みに行こうよ!」


















 そして、物語は新たな章へ突入する。










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