そして時は流れ……朝日が差し込む頃。
「…………」
「…………」
「…………」
机の上の料理はすっかり平らげられ、アオイの前には空のジョッキが9個、無造作に重ねられている。
肝心の三人はというと――
「すぅ……すぅ……」
「くかーーー……かふぁっ」
「……Zzz……」
完全に寝ていた。
「ったく、こいつらは……」
店長はため息をつきながら、静かに食器を片付けていく。
会議を終えたあとの三人は、そのまま話に花を咲かせ……気がつけばアオイに勧められるままリュウトもヒロユキもお酒を飲み、撃沈。
気持ちよさそうに寝息を立てているものの、どういうわけか服はすっかりはだけていて、ブラとパンツがばっちり丸見えという有様だった。
「……どうしてそうなった」
店長は、視線をそらしながら、静かに雑巾でテーブルを拭いた。
「そろそろ店を開けるんだが……さて、どうしたものか」
店長が眉をひそめていたそのとき、先に目を覚ましたのはヒロユキだった。
「……っ!」
アオイのはだけた服を見て、思わず目を見開く。
「……なぜ、こうなっている」
呟きながらも、ヒロユキは無言でアオイの服を整えてやる。
「起きたなら、他の連中も起こして早く出ていってくれ」
「……あ、あぁ。すまない」
ヒロユキはすぐにリュウトを揺すって起こしにかかる。
「……リュウト、起きろ」
「……」
よほど飲んだのか、リュウトはピクリとも動かない。
「……アオイ」
今度はアオイの肩を揺らすが――
「んにゃぁ……あちぃ……」
――起きるどころか、寝ぼけながらまた脱ごうとしはじめた。
「…………」
無言のまま、ヒロユキはボコッとリュウトの頭を殴った。
「いってぇっ!?なにすんだよ!?」
「……起きろ。朝だぞ」
「いや、加減ってもんがあるだろ!?今の衝撃って小型の魔物なら気絶してるぞ!」
「……店に迷惑がかかる。それに、お前は行く場所があるはずだ」
その一言で、リュウトはようやく思い出したようにアオイから渡された魔皮紙を取り出し、刻まれた時刻に目を落とす。
「そうだった!アオイさんが“サプライズがある”って言ってたんだ!」
「……早く行ってこい」
「おう!……ヒロユキ」
「……?」
「その……なんだ、上手く言えねぇけど――死ぬなよ?」
「……そっちこそ」
「フッ。じゃ、またな。アオイさんにもよろしく!」
リュウトはそう言い残すと、まだ霧の残る朝の道を勢いよく駆け出していった。
「行ったね」
「……ああ、って……!?」
気付けば、ヒロユキの隣にはアオイが立っていた。
「……いつからいた」
「いや、ほんとさっき起きたとこ」
「……それで、リュウトに言ってた“サプライズ”ってなんだ?」
「ふふっ、気になる?」
アオイは得意げに笑う。
「それはね――」
――――――――――――――――――――――
《アオイの指定した集合場所》
「……ここで待て、って言ってたけどさ」
そこはアバレーでも有名な花畑だった。
四季折々の花が色とりどりに咲き誇り、花弁すら散らないよう魔法で保護された幻想的な場所。
人の手が加わっているとは思えないほど自然で、それでいて完璧な美しさを保っている。
時間はまだ朝。誰もいない静寂の中、鳥の声だけが心地よく響いていた……はずだった。
「サプライズって……なんだろうな。正直、全く想像もつかないんだけど」
リュウトは首を傾げながら辺りを見渡す。
その背後――音も気配もなく、そっと歩み寄る一人の少女の姿があった。
「……リュ、リュゥト……」
「っ!?」
その声に振り返った瞬間、リュウトの目が大きく見開かれた。
そして――
「……う、あ……っ」
涙が、頬を伝ってこぼれ落ちる。
彼はその場に膝をつき、声も出せずに――ただ、泣いた。
アオイの“サプライズ”は、何よりも温かく、優しく、そして尊い再会だったのだ。