《三日後》
「よし、ギリギリ間に合った……っと」
俺の家の周囲には、高級テントがいくつも立ち並んでいた。
しかもその全部が、まさかの“倉庫用”という超贅沢な使い方をされている。
――もちろん、これらの費用はぜんぶムラサメさん持ちだけど。
「これだけ使っても、まだ“億”単位で残ってるって……そりゃ代表騎士を目指したくなるわけだ」
とはいえ、そんな邪な理由だけで代表騎士になれるほど、あのポジションは甘くないんだろうけど。
「そろそろルカ達が来る時間か……着替えよっと」
服を脱ぐと肌に触れる空気がひやりとして、白くすべすべな自分の肌が目に入る。
ふと下を向けば、視界のほとんどを覆うような大きな胸が目に飛び込んでくる。
「……はぁ」
ため息が漏れる。嫌悪感はもうないけど――なんというか、やっぱりまだ慣れない。
この“女の子”としての身体に。
首元まで覆うピチピチの黒い全身インナースーツに袖を通すと、ひんやりとした感触が肌に広がった。
その上からスカートを履くけれど……うう、なんかこう……くすぐったいというか、照れくさいというか。
「……むずがゆい……」
「さて、と。後は――これ!」
そう!そんなことより、今回から俺はついに武器を持つことになったのだ!
「クナイ!」
俺の筋力でも扱いやすくて、汎用性もあって……そして、何より“血が出るのはイヤ”という理由で、刃先にはたっぷりとシビレ毒を漬け込んだ。
一応、魔物用だけど、人間にも効くらしい。魔族にも……効いてくれたらいいな。
「どうせなら、忍者っぽくやりたいよね!目指せビッグボス!」
――そんなふざけたことを口にしていたら、ルカとムラサメさんが歩いてきた。
ルカは、三日前とはすっかり変わった拠点の様子に目を丸くする。
「これはまた……ずいぶんと揃えたのぅ」
「ふふっ、備えあれば憂いなしってやつだね。あ、ムラサメさん、ギルドカードありがとうございました」
「ですぞっ!?」
「?」
ギルドカードを手渡した瞬間、ムラサメさんの指先が震えた。
その震えは全身に伝わり、仮面の隙間からは汗か涙か分からない体液がぽたぽたとこぼれ落ちる。
「『ありがとう』と……我が君が……我が君がっ……私に感謝の言葉をぉぉぉぉぉ!!」
「な、なんであの人……太陽に向かって叫んでるの?」
「気にすることないのじゃ。アイツはいつもあんな感じなのじゃ」
「もう一人の僕は……どうやって接してたんだろ……。ま、いいや。とりあえず、準備は整ったよ」
「うむ、では行くのじゃ」
「……ところでさ、ちょっと気になってること、聞いていい?」
「なんなのじゃ?」
俺は、いまだに感動のあまり小刻みに震えているムラサメさんを横目にスルーしながら話を続けた。
「いや、ほんと単純な質問なんだけど……次の魔王のところまで、どうやって行くの?」
これまでは、偶然とか流れで着いていくだけでなんとかなってた。
一回目は吸血鬼の魔王のとこへ“タマタマ”行けたし、二回目はヒロユキ達にくっついてたらアヌビスのとこへ着いた。
でも今回は違う。完全に、自分から意図して向かわなきゃいけないのだ。
「――ワシに乗って行くのじゃ」
「……ん?」
「まぁ、見ておれなのじゃ」
そう言ってルカは、ふわりと浮かび上がると同時に、背中から《クリスタルの翼》を広げて空へと舞い上がった。
そして――そのままどこかへ飛んでいってしまった。
「え?ちょ、ま、え?おーい!?どこ行くねーん!!」
……って、ええええええええええええええええええええ!?!?
その日、俺は――
ルカの“本当の姿”を初めて目にした。