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第412話 敵の村

 《????村》


 魔物、そして“アイ”という得体の知れない人物に警戒してか、誰一人として言葉を発さず、無言のまま俺のパーティーは目的の村へと向かった。


 着いた先は、木造のコテージがいくつも並ぶ――まさに田舎の村って感じ。

 どこかグリード王国にあった《クローバー村》の雰囲気に似ていて、妙な懐かしささえ感じた。



 ……てか、俺の仲間たち、あの妊婦さん相手にも殺気立ってたけど!?

 あれ、俺が止めなかったら絶対やってたよね!?

 てか、もしかして……これ、パーティーの属性、勇者側じゃなくて……“ダークサイド寄り”では!?


 「ここが我々の村──《セクシアル村》だ」


 セクシアル村……つまり、ここも今までの《ライブラグス》と同じ類の“魔王拠点”ってことだろう。


 目的地に着いたし、まずは俺から話しかけてみるか。


 「は、はい……あの、僕たちのことなんですが――」


 「君たちもここまで来られたということは、人間の国ではそれなりに名のある冒険者だったのだろう?」


 「え、あ、はい……まぁ一応」


 「だが、君たちは運が良かった。ここに来たおかげで“真実”を知る機会を得られる」


 「……真実?」


 「ふむ、それはまた後日話そう。今は長旅で疲れているだろう。まずは私の家へ案内しよう。

 ……君たち、全員が殺気を放ったままだと、ゆっくり話もできんからな」


 ――あぁ、それは俺も思ってた。

 正直、後ろの面々、警戒モードを一切解いてない。というか、もう“オーラ”出てる。


 ルカなんか今にも「何ガン飛ばしてんじゃゴルァ」って言いそうな目つきだし。

 これ、ヤンキー同士の喧嘩前じゃん。


 「は、はは……ごめんなさい」


 「ああ、気にしなくていい。ここまで生き延びて来れた冒険者なら、人に会ってまず疑ってかかるくらいじゃないと生き残れんさ」


 ……うん、正論。

 けど、それってつまり、何の警戒もせずにヘラヘラしてた俺は「来るまでに死ぬタイプ」ってことじゃん。

 ……あれ?俺、地味にダメ出しされてない?


 「この村には大体の物が揃ってる。それこそ、人間の国じゃ手に入らないような万能薬や魔皮紙、珍しい料理素材なんかもな」


 そう言われて歩きながら周囲を見渡すと、子供たちが楽しそうに遊んでいる向こうに、どこかで見たようなマークの看板が目に入った。


 ──あれ、ポーションのマーク?

 元の世界で言うところの薬局だな……後で寄ってみよう。


 「そういえば、お金ってどうなるんですか? ギルドカード、使えたりします?」


 “人間の国では”という言い方が気になった。

 この村の住人たちはアヌビス族のように偽装している可能性もあるし、あるいは吸血鬼のように変化しているのかもしれない。

 どちらにしても、今のところ敵意も感じないし、不自然な点もない。

 ならば、警戒は保ちつつ、世間話をしながら少しでも情報を引き出すべきだ。


 ──もし操られてるだけなら、洗脳を解かなくちゃいけないし。


 「あぁ、もちろんギルドカードは使えない。我々の村で使うのは、これだ」


 そう言って、アイさんは小さなガラスの小瓶を取り出した。

 中には、どろりと濁った白い液体が揺れている。


 「……?」


 「この小瓶をいくつかで、物と交換する。まぁ君の場合、この村じゃお金持ちになれるだろうね」


 「????」


 どういうことだ? この小瓶と、俺が金持ちになることに何の関係があるってんだ?


 「さ、着いたぞ。ここが私の家じゃ」


 アイさんが指さした先にあったのは、他と同じく木造のコテージ。

 まるでキャンプ場にあるような、小さくて可愛い建物だった。


 ――あれ?


 後ろを振り返ると、そこにエスの姿はなかった。


 「……エスは?」


 「アイツは、途中で“気になる場所がある”とか言って、別行動をとったのじゃ」


 「そっか……」


 そのままコテージの中に招かれ、玄関を開けると――


 「「「ママー!おかえりーっ!!」」」


 「ただいま、息子たち」


 わぁ……小さい……幼稚園くらいの子が三人、笑顔で飛びついてくる。

 アイさんは優しい目で一人ずつ抱きしめると、くすぐったそうに笑った。


 「おかえり、アイ」


 「……ただいま、キング様」




 え――?




 俺はその声に振り返る。そして、そこに立っていた人物を見て――絶句する。




 子供を穏やかに抱きかかえる、その姿。

 見間違えるはずもない――




 そこに居たのは……かつて、奴隷番号33番を与えられていたあの男だった。


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