「えーっと……え?」
……何言ってんのこの人。
いや、たしかにさ。
最初にこの白い液体見せられたとき、ちょっとだけ思ったよ?
『なにこれ、精子?』って。
でもあれ、ネタだと思ってたんですけど!? マジだったのかよ!?
「ここに来ると本当に驚くことが多いのは分かる。私も最初は衝撃だった」
「ど、どうして精子が使われてるんですか……?」
「正直、私も理由は分からない。でもこの村では、ずっと昔から普通なんだ」
「わ、訳が分からないよ……」
こんなの絶対おかしいよ……!!
「まぁ、搾り取るのはそこまで難しくないし。今日、私がやり方を教えてあげる」
──その瞬間、思い出した。
さっき、キング偽物が言ってたんだ。
『夜が楽しみだ』って。
「……そういうことかぁぁ……いや、お断りします!!」
「大丈夫だよ。キング様と言えば、表では姿を隠していたけど……実はアバレーの騎士たちの憧れの的だったんだ。そんな相手と交わったとなれば、自慢にすら──」
「いや違います!! そういう話じゃないですから!!」
「どうしてだ? 君も獣人だろう? 強い男に抱かれるのは、本望では?」
ええええぇぇ……!?
今、獣人化してるのは“いざって時に反応しやすくするため”であって、元は人間なんですけど!?
ていうか獣人ってそういう価値観なの!? “かっこいい”より“強い”のがモテる基準なの!?
……ダメだ、どう断っても押し通されそう……
でも、逆に! 逆にこれでいけるかも!!
「ぼ、僕……心に決めた人が居るんです!」
ドヤァ……!
これは完璧! 誰にも傷つけず、誰にも踏み込ませず、完全ガード!!
おれは天才か!?
なぁアイさん、お願いだから納得して! これ以上の切り札ないから!!
「なるほど! それならそうと言ってくれれば良かったのに!」
──納得してくれた! よしっ!
これで男のモノに触れることもなく、無事に今日を終えられそうだ。
「それならば……【儀式】を行った後になりそうだな」
「……儀式?」
「ああ。この村に来てある程度慣れた者には、“儀式”があるのだ」
──うわ、それ絶対アレじゃん。
この会話の流れ的に……めっちゃ嫌な予感しかしない。
「い、痛くない……?」
「?」
「いや、その……儀式って、この流れからいくと……僕の“処女”が……みたいなやつでしょ……?」
「はっはっは、そんなことはしないさ」
「村を出て少し行った場所に神殿があってな。そこで祈りを捧げるだけだ。明日くらいに案内するから、楽しみにしてるといい」
──なーんだ。良かった。
いやでも“嘘の彼氏設定”作っちゃったけど大丈夫かな?その神殿の祈りでバレたりするんじゃ__
……いや、ここでこれ以上深掘りすると絶対ロクなことにならない。
「分かりました。楽しみにしておきますね」
「キング様にも伝えておくよ。君みたいに美しくて可愛い子と交われないのはきっと悔やむだろうが、“好きな人がいる”って聞けば納得してくれるはずさ」
──やばい、やばい、やばい。
こういう話題に慣れてきてる自分が……怖い。
……よし、ここで健全な話題に戻しつつ、情報を引き出す!
「……そういえば、“好きな人”で思い出しました。
アイさんは……キングさんのどこに惹かれたんですか?」
その質問に、アイさんはピタリと動きを止めた。
──そして、ほんのり頬を染めながら目を逸らし、チラチラとこちらを見てくる。
えっ、なにこの乙女ムーブ。
普段のあの強気お姉さん系キャラとはまるで別人じゃん……!?
「キ、キング様はな……アバレーの騎士たちの間で、憧れの的だったんだ。
私が初めて会ったのは、まだ新人の頃で──」