《セクシアル村》
「しっかし、気味の悪い村なのじゃ……どこへ行っても、子供、子供、子供、子供、子供、子供!」
アオイと別れた後、ルカは一人で村中をくまなく歩き回っていた。
「ここら辺が子供の多いエリアなのじゃ? ……いや、それにしてもじゃ。
この村、そんなに広くもないのに──」
そう、異様なのだ。
村を歩けば、あちこちで獣人と人間の子供たちが仲良く遊んでいる。
最初は微笑ましく見えたその光景も、よく見れば不自然すぎる。
「大人の数に対して、子供の数が圧倒的すぎるのじゃ……」
ルカの感覚では、大人一人に対して子供三人以上の比率になっている。
しかも、建物の裏や奥のほうからも、途切れることなく子供の声が聞こえてくる。
「ふむ……考えられるのは、魔族が種族の繁栄を優先して、子供を大量に産んでいるということなのじゃが……
しかし、それなら今までの長い年月の中で、もっと増えていてもおかしくはなかったのじゃ……」
ルカがそんな風に思案していたその時──
「お姉ちゃん、あそぼー!」
「む?」
ふいに、背の低い女の子が一人、ルカに声をかけてきた。
「ぼーる遊び、しよっ!」
「ぬぅ……すまぬのじゃ。今はそれどころでは……」
「……ふぇ……」
ぷるぷると唇を震わせ、今にも泣きそうな顔になる少女。
「ま、ま、まつのじゃっ……!」
「うぅ……」
ルカは慌てて周囲を見渡す──が、周りの大人たちからは、冷たい視線が返ってくるばかり。
(な、なんなのじゃ……遊んでやらないと、“悪い大人”扱いされる空気なのじゃ!?)
「ぐぬぬ……これ以上目立つとまずいのじゃ……そうじゃ! お主、これを見よ!」
ルカは足元に転がっていた、何の変哲もない手のひらサイズの石ころを拾い上げた。
「ふぇ?」
「よ〜く見るのじゃ……ほれっ!」
ルカがその石を手のひらで包むと、目の前でみるみる色と形が変わっていく。
「わぁっ!すごーい!」
最後には、太陽の光をきらきらと反射する、漆黒の美しいクリスタルへと変化した。
「これをお主にやるのじゃ。ワシは忙しいのでな、これで勘弁してほしいのじゃ」
「ほんとに!? やったー! うん、いいよ! お母さんに見せてくるー!」
そう言って女の子は嬉しそうに駆けていき、母親のもとへ戻っていった。
──ふと気づけば、さっきまでルカに冷たい視線を向けていた村人たちも、すでにそれぞれの作業や遊びに戻っていた。
「……いったい、あの雰囲気は何だったのじゃ? まぁ、何とかなったからよしとするのじゃ。ふぅ……」
「お姉ちゃん!」
「うおっ、どうしたのじゃ? もう戻ってきたのか」
「これっ! お礼にあげる! あまくておいしいの!」
少女の手には、魔皮紙のコップ。中には、アオイが飲んでいたのと同じ──
ピンク色の、ドロッとした液体が入っていた。
「おぉ……たしかに、少し喉が渇いておったのじゃ」
「はいっ!」
嬉しそうに手渡されたその飲み物を、ルカは素直に受け取り──
「ん……ゴク、ゴク……ぷはっ!」
一気に飲み干すと、空いたコップを自分の魔皮紙にしまい、再び歩き出す。
「しっかし……他に何か手がかりが――…………ッキャウッ!?」
何の前触れもなく、それは起きた。
村の広場で遊んでいた子供たちが投げたボールが、ルカの足に軽く当たった。
ただ、それだけの出来事のはずだった。
「くっ……イ……!!!!!」
突如、ルカの全身に走る異常な震え。
肩がビクリと跳ね、膝が砕けるようにその場に崩れ落ちる。
「っ……ぁ……な、なんじゃこれは……ッ」
全身がビクビクと痙攣し、力が入らない。
そして、はっきりとわかる──
これは、何かを“感じさせられた”反応だった。
ただの衝撃でこうはならない。
触れただけで、まるで“快楽”のような電流が脳を直撃したような……そんな錯覚。
「っは……はぁ、はぁ……っ……なんじゃ……これ……」
周囲の子供たちは、何事もなかったかのようにボールを追いかけて笑い合っている。
ルカだけが、世界から取り残されたように、その場で震えていた。