《セクシアル村》
「あぁ……可愛い……美しい……尊い……ですぞ……」
仮面を被り、全身をマントで覆った男が一人。
かつてアバレーの騎士団を代表し、その名を知らぬ者はいなかった男。
──その男、今は。
「ぐへへへへ……我が君……我が君ぺろぺろですぞ……♡」
アオイの魔写真を手に持ち、うっとりと舐めるような視線(と本当に舐めてるかもしれない舌)を送りながら、村の中を堂々と歩いていた。
その異常な姿に、魔族たちはあえて視線を逸らし、
子供たちは本能的に彼から距離を取り、見ないようにしていた。
「まさか……本当にこんな日が来るとは……! 我が君のために働けるなど!
このムラサメ、歓喜で涙が止まらぬですぞぉぉぉ……!!」
仮面の下は見えないが、震える声には確かな感情がにじんでいた。
……どんな感情かは、さておき。
「さて、と。働いて、我が罪を少しでも……償わねば……お?」
魔写真をそっとポケットにしまい、前を向くムラサメ。
その目に飛び込んできたのは、道端でうずくまっている、見慣れた青髪の女性の姿。
白い特攻服──ルカだ。
「まったく……あんなところで何をしているのですぞ。みっともないのですぞ」
最初は軽く小言をこぼすムラサメだったが──ふと気づく。
周囲の村人たちは、誰一人としてルカに声をかけようとしなかった。
むしろ遠巻きに見つめながら、様子をうかがっているようだった。
「……ふむ」
ムラサメはその異様な空気を読みつつも、慌てることなくルカのもとへ歩み寄る。
白い特攻服に身を包み、道端にうずくまる青髪の獣人少女──
「何をしているのですぞ、アナタは」
顔を上げず、ルカは震える声だけで返す。
「そ……その声は……ムラサメなのじゃ!? よ、良かった……!」
「何が“良かった”ですぞ? 我が君の右腕であるアナタが、そんなみっともない格好で……この先、不安しかないのですぞ」
「そ、それについては後で……うぅ、ハァ……ハァ……」
ルカの息は、明らかに荒い。
「……それで? 何があったのですぞ」
「……分からぬのじゃ……体が、どうにも……おかしいのじゃ……」
「ふむ。ならばここで話している場合では──目立つのですぞ」
「わ、分かってるのじゃ……でも、身体が……」
「身体が? いったいどこが──」
「分からないと言ってるのじゃ! 2回も聞くでないのじゃッ!!」
「むぅ……ならば、さっさと行くのですぞ!」
ムラサメはイラついた様子でルカの腕をガシッと掴み、強引に引き上げた。
その瞬間──
「ク、ぁぁぁあああああああああっ!! イっ……!!!!」
ルカの身体がビクンッ!!と大きく跳ね、
白目を剥いたまま、そのまま崩れるように意識を手放した。
どさっ……
倒れた後も、ルカの身体は小刻みにピクピクと痙攣を続けている。
「……まったく。とんだ恥さらしですぞ。
──まぁ、気絶してくれていた方が、こちらとしては助かりますがな」
呆れたように肩をすくめると、ムラサメはルカの体をひょいと担ぎ上げる。
そのまま、村人たちの冷たい視線も気にせずに歩き出していった。