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第417話 ルカ回収

 《セクシアル村》


 「あぁ……可愛い……美しい……尊い……ですぞ……」


 仮面を被り、全身をマントで覆った男が一人。

 かつてアバレーの騎士団を代表し、その名を知らぬ者はいなかった男。


 ──その男、今は。


 「ぐへへへへ……我が君……我が君ぺろぺろですぞ……♡」


 アオイの魔写真を手に持ち、うっとりと舐めるような視線(と本当に舐めてるかもしれない舌)を送りながら、村の中を堂々と歩いていた。


 その異常な姿に、魔族たちはあえて視線を逸らし、

 子供たちは本能的に彼から距離を取り、見ないようにしていた。


 「まさか……本当にこんな日が来るとは……! 我が君のために働けるなど!

 このムラサメ、歓喜で涙が止まらぬですぞぉぉぉ……!!」


 仮面の下は見えないが、震える声には確かな感情がにじんでいた。

 ……どんな感情かは、さておき。


 「さて、と。働いて、我が罪を少しでも……償わねば……お?」


 魔写真をそっとポケットにしまい、前を向くムラサメ。

 その目に飛び込んできたのは、道端でうずくまっている、見慣れた青髪の女性の姿。


 白い特攻服──ルカだ。


 「まったく……あんなところで何をしているのですぞ。みっともないのですぞ」


 最初は軽く小言をこぼすムラサメだったが──ふと気づく。


 周囲の村人たちは、誰一人としてルカに声をかけようとしなかった。

 むしろ遠巻きに見つめながら、様子をうかがっているようだった。


 「……ふむ」


 ムラサメはその異様な空気を読みつつも、慌てることなくルカのもとへ歩み寄る。


 白い特攻服に身を包み、道端にうずくまる青髪の獣人少女──


 「何をしているのですぞ、アナタは」


 顔を上げず、ルカは震える声だけで返す。


 「そ……その声は……ムラサメなのじゃ!? よ、良かった……!」


 「何が“良かった”ですぞ? 我が君の右腕であるアナタが、そんなみっともない格好で……この先、不安しかないのですぞ」


 「そ、それについては後で……うぅ、ハァ……ハァ……」


 ルカの息は、明らかに荒い。


 「……それで? 何があったのですぞ」


 「……分からぬのじゃ……体が、どうにも……おかしいのじゃ……」


 「ふむ。ならばここで話している場合では──目立つのですぞ」


 「わ、分かってるのじゃ……でも、身体が……」


 「身体が? いったいどこが──」


 「分からないと言ってるのじゃ! 2回も聞くでないのじゃッ!!」


 「むぅ……ならば、さっさと行くのですぞ!」


 ムラサメはイラついた様子でルカの腕をガシッと掴み、強引に引き上げた。




 その瞬間──




 「ク、ぁぁぁあああああああああっ!! イっ……!!!!」


 ルカの身体がビクンッ!!と大きく跳ね、

 白目を剥いたまま、そのまま崩れるように意識を手放した。


 どさっ……


 倒れた後も、ルカの身体は小刻みにピクピクと痙攣を続けている。


 「……まったく。とんだ恥さらしですぞ。

  ──まぁ、気絶してくれていた方が、こちらとしては助かりますがな」


 呆れたように肩をすくめると、ムラサメはルカの体をひょいと担ぎ上げる。


 そのまま、村人たちの冷たい視線も気にせずに歩き出していった。





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