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第418話 分析の魔眼

 《セクシアル村近くの山》


 「……上から見る限り、ただの普通の村にしか見えんな」


 セクシアル村から少し離れた山の上。

 目を細めて村を見下ろしているのは、アオイとは別行動を取っているエス。

 その傍らには、通信魔皮紙を通して村の様子を確認している、リュウトたちと共に行動している少女・みやの姿。


 {……ぅん。でも、なんかおかしぃ……}


 「今、そっちは大丈夫か? リュウトたちにバレたら面倒だぞ」


 {ぅん、今は順番で寝てるとこ。いまは私1人}


 「……そうか。なら、さっさとやってくれ」


 {ぅん。でもこのこと、ちゃんとアオイ様に……}


 「わかってる。ちゃんと報告する」


 エスは魔皮紙の視界を村の方へ向け、みやに映像が届くよう調整する。


 {『分析』}


 その瞬間、みやの片目が縦に細く鋭くなり、もう片方には妖しく輝く蛇の紋章が浮かび上がった。


 「……どうだ?」


 {……ここからだと、ちょっと時間かかるみたぃ……でも、何かある}


 「了解だ。続けてくれ」


 {……うん}


 通信を繋いだまま、エスは立ち上がって周囲の森へ視線を向ける。

 風もなく、葉も揺れず、鳥の声もない。


 「……静かすぎるな」


 エスは低く呟いた。


 最後に魔物を見たのは、アイという名の獣人と接触したとき。

 それ以降、森の中には一匹たりとも魔物が現れていない。


 ――まるで、何かが“魔物すら寄せつけない”ようにしているかのように。


 「……む」


 静かな森を見渡していたエスの視界に、何かが動いた。

 木々の間から、ルカを担いだムラサメが姿を現す。


 「……よくここが分かったな」


 「分かるも何も、貴方の使う武器を見れば予測できますですぞ」


 エスが背負っているのは漆黒の双剣。

 だが、それは“仮の姿”だ。

 本来の武器は弓──そして、アオイを守るための最良の狙撃地点として、

 この山を選んだという事実を、ムラサメは見抜いていた。


 エスは小さく鼻を鳴らす。


 「ふん。それで──そいつはどうした? 死んだか?」


 「吾輩が見つけた時には、道端でうずくまっていたのですぞ。

 気絶はしておるですが、まだ息はあるので死んではおりませぬですぞ」


 「そうか」


 「まぁ、症状を見るなら……直接の方が早いですぞ」


 ムラサメはそう言うと、肩に担いでいたルカを──

 勢いそのまま、エスの目の前へ放り投げた。



 ドサッ!


 ルカの身体が背中から地面に叩きつけられる。




 「が、あぁぁあおああああ!! ぐぎぎぎ……あ……はぁ……ハァッ……!」




 激しい衝撃に地面でのたうち、唾液を垂らしながら歯を食いしばるルカ。

 それは痛みの反応にしては、あまりにも“異質”だった。


 「……痛覚がやられたか?」


 「その可能性はあるですぞ」


 エスとムラサメは、冷静に反応を分析する。

 だが、荒い息を吐きながら、ルカが震える声で否定した。


 「ち、ちが……うのじゃ……そ、そんなんじゃ……な、いのじゃ……」


 ルカはガクガクと足を震わせながら、なんとか立ち上がった。

 その腕は、自分の胸の前で交差するようにぎゅっと握られ、まるで何かから逃れるように──否、耐えるように震えていた。


 「……何が違う。あの程度の衝撃で転げ回るほど痛かったんじゃないのか?」


 「ちが……うのじゃ……っ!

  あれは……いたいんじゃなくて……その……なんというか……くすぐったい様な、きもちいい様な……その、じゃな……」



 そのとき──




 {……分析、完了したょ……魔族の、種類は──}













 {『サキュバス族』}












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