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第419話 役割分担

 「……サキュバス、だと?」


 「吾輩も今まで色々な種族を調べてきたのですぞが、“サキュバス”という種族は、外見どころか記録そのものが出てこなかったのですぞ……」


 {得意な魔法は『魅了』っ。それと、もう一つ──【DNA変化】って出てるょっ}


 「魅了はわかる……が、【DNA変化】?」


 {ぅんっ。私もこの魔法は初めて見るけど、ここからじゃ詳しい分析はむずかしぃ……

 できれば、サキュバスを一匹ここに連れて来てくれたら、もっと詳しく見れるっ}


 その言葉に、場の空気がぴんと張りつめる。


 ──“サキュバスを一体捕らえれば、詳細な情報が得られる”


 敵の魔法の特性さえ把握できれば、今後の戦闘が圧倒的に有利になる。

 それは全員がすぐに理解していた。


 「……仕方ない。ルカがあんな状態だ。

 本来なら、ここから狙撃援護するつもりだったが──この場は俺が行こう」


 「いや、エス殿以外に長距離支援ができる者はいないですぞ。

 ここは吾輩が行くのが最適解ですぞ」


 2人がどちらが動くかを議論しようとした、その時。


 「……ワシが、行くのじゃ!」


 ビクリと声を上げたのは、立ち上がったばかりのルカだった。


 「今のお前に、何ができる?」


 エスの声は冷静だったが、突き刺さるような重みがあった。


 「そうですぞ。来て早々、訳もわからず地面を転げ回っていた貴女が、何を言ってるのですぞ?

 控えめに言って、足を引っ張ってるのですぞ。だからこそ──今は引っ込んでおくべきですぞ」


 「な、な……! ワシは! ワシはNo.2なのじゃぞ!? その口の利き方は──!」


 「だったらなおさら、現状を理解しているはずだよな?

 No.2ってのは、“今の自分が戦力になるか”くらい、自覚できる立場なんだろう?」


 「ぐっ……」


 ルカは、言い返せなかった。


 唇を噛み、拳を握り――しかしその時。


 「……おい、みや」


 {んゅ?}


 「ルカを分析しろ。今、体の中で何が起きている?」


 {う、うん……『分析』……完了したょっ}


 「……」


 {ルカ様の状態は……『感度上昇』って出てるっ}


 「……なんだそのふざけた状態は」


 {わかんない。でも、ルカ様の魔力に何かが反応してて、身体の中で何かが広がってる……

 えーっと、胃と腸に変な反応があって、それを吸収してるみたい……}


 「なに……?」


 その言葉に、ルカの脳裏に“ある記憶”がよぎる。


 (……まさか、あの時の!? あのピンク色の――!!)


 「胃と腸ってことは……」


 「こ、これを!これを分析してみるのじゃ!」


 ルカは慌てて魔皮紙から例のコップを取り出し、みやに見せつけた。


 {……っ!! 『魔王バルゴの破片』……!?}


 「な、なんですとぉぉ!?ですぞぉ!?」


 その名前に、全員が息を呑む。

 それは紛れもない、“魔王”の痕跡だった。


 ルカはその反応を見逃さなかった。

 ――これはチャンスだ。ここで押せば、主導権を取り返せる。


 「ふふん、どうなのじゃ? お前たちが何もしていない間に、ワシはこうして身体を張って短時間で情報を手に入れたのじゃ!」


 「な、なんということですぞ……! この短時間で“敵の魔王の情報”を……!」


 「……なるほど。確かに……その通り、だな」


 「ルカ殿の言い分にも、一理あるですぞ」


 「(ふぅ……物は言いよう、なのじゃ……)」


 本当はただ、喉が渇いて何も考えずにピンクの液体をゴクゴク飲んだだけ。

 ――だがそれは、誰にも言うまい。


 「……みや」


 {なぁにっ、エス?}


 「“バルゴの破片”について、他に分かったことはあるか?

 もしも毒性があるなら、ルカを向かわせるわけにはいかない」


 {うん……でも、命に関わるような毒ではなさそうだょ。ただ……ちょっと……}


 「……何だ? 言え」


 {みえたまま、言うね……

 “バルゴの破片が身体に吸収されると、男性の場合は女性を求めるようになって精力が著しく上昇。

 女性が吸収した場合は、魔力量に応じて……排卵が継続されて、身体の感度が……”}


 「もういい」


 エスがピシャリと遮る。


 「……やっかいな状態なのは分かった。本当に行けるんだな、ルカ」


 「フンッ、ワシを誰だと思っておるのじゃ。

 この程度で引き下がるようなヘタレではないのじゃ!」


 「さっきは“イッ”て倒れてたですぞ」


 「そ、それはそれ! 今は今なのじゃ!」


 ムラサメのツッコミに顔を赤らめつつ、ルカは胸を張る。


 「……では、最終確認だ」


 エスが静かに言う。


 「俺はここからアオイの援護に回りつつ、上空から村の様子を監視する。

 何か不審な動きがあれば、すぐに知らせる」


 「吾輩は、我が君のお側に常に控え、命を賭してでもお守りする所存ですぞ!」


 「そしてワシは、サキュバスを一匹連れてくる。情報を手に入れ、状況をひっくり返してやるのじゃ!」


 エスは頷いた。


 「……やり方は、それぞれに任せる。

 だが、絶対に“アオイの邪魔”になる行為と、“アオイを危険に晒す”ことだけは……絶対にするな。いいな?」




 「──全ては」








 「「{『アオイ様のために』}」」















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