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第420話 時すでにお寿司

 《セクシアル村 アイ家》


 「へぇ……なるほどぉ……」


 「さらに、キング様にはこんなかっこいい逸話があってですね──

 まさに、何者にも屈せぬ信念を持ったお方で……」


 ……もう、何時間話してるんだろう。

 窓の外はすっかり暗くなってる。


 “あ、暗くなってきましたねー”

 “明かり点けますねー”──って、そこで終わるのが普通だよね!?

 なんで第二章が始まってるのさ!キングさんがすごいのはもう百も承知だからァ!!


 ……とはいえ、それを顔に出すわけにもいかない。

 愛想笑いを貼りつけたまま、俺は必死に頷き続ける。


 (……早く……この話を終わらせてくれぇ……!)




 ――その時、救いの音が鳴った。




 ピンポーン……




 「……ふむ。誰か来たようだな」


 アイさんは立ち上がると、魔皮紙を操作して玄関外の様子を確認する。


 「どうやら、君のパーティーメンバーが来たようだ」


 そう言って、アイさんは玄関へ向かった。


 「…………ふえぇ……」


 俺はアイさんが部屋を出た隙に、授業中みたいに机へ上半身を倒す。

 ……ただの、疲れた人間の自然な行動だったはず。


 ――だったのに。


 「うひゃっ!?」


 胸が、思いっきり俺のあばら骨と机にサンドされた瞬間、身体の奥から“変な感覚”が込み上げてきた。


 「???」


 慌てて背筋をビンッと伸ばして、変な声を誤魔化す。


 (な、なに今の!? こしょばゆいというか……やばいってこれ!)




 「お邪魔しますですぞ……おおお! 我が君!! ムラサメ、今!戻りましたですぞ!!」


 玄関から勢いよく入ってきたムラサメは、俺の姿を確認すると即座に膝をついた。


 「え、あ、はは……おかえり?」


 「はいですぞ!!」


 「ハッハッハ、仲がいいな君たちは」


 アイさんがほほえましそうに笑う。

 ああそうだ、アイさんはアバレー出身なんだっけ……でもムラサメさんのことは、知らない……?


 「それにしても、“ムラサメ”と名乗るとは、君も中々のムラサメファンだな」


 「ムラサメファン……?」


 「うむ。ムラサメ様といえば、アバレーの代表騎士。

 冷静沈着、常に仮面をつけ、相棒の『蜘蛛蛇』と共に任務を遂行する孤高の英雄……!

 私も一度惚れかけた口だ。君もそうだろう? ムラサメ君」


 「吾輩は本物ですぞ」


 「ハッハッハ! そうかそうか、“本物”ならこんな何もない家に招いてしまって悪かったな。

 そろそろ夜だ。私は夕食の準備に入るから、客室でくつろいでいてくれ」


 そう言って、アイさんはニコニコと笑いながらキッチンの方へと去っていった。


 (……いやいやいや、完全に“ヤバいムラサメファン”扱いされてるじゃん……!)


 本物なのに──。

 仮面かぶってるし、冷静沈着じゃないし、やたらお喋りだし、相棒の蜘蛛も居ないし。

 そりゃ信じてもらえないよね……。


 (……まぁ、ギルドカード見せてもらって俺は本物って知ってるんだけど……

 今はこのまま“勘違い”してもらった方が良さそうだな)


 「じ、じゃあムラサメさん……お言葉に甘えて、あっちの部屋に二人で行こっか」


 「御意ですぞ!」




 そのまま、ムラサメと一緒に“客室”と呼ばれた部屋へと入る。




 ──客室、って聞いたからソファとテーブルくらいの待機部屋かと思ってたんだけど。


 中は予想外だった。


 シャワールーム完備、ミニキッチンつきのワンルーム式。

 そして、何より目を引いたのは──部屋の中央に、どーんと置かれたダブルベッド。


 (……いや、なんで!?)




 「我が君、こちらへどうぞ」


 「あ、ありがと」


 ムラサメが椅子を引いてくれたので、遠慮なく腰を下ろす。


 「ふぅ……」


 「お身体の調子は、大丈夫ですぞ?」


 「うん。今のところ、特に何もされてないからね」


 「それは何よりですぞ。ちなみに、他の方々の動向ですが──」


 言いかけたムラサメは、魔皮紙を取り出して俺に手渡してきた。


 俺が魔力を通すと、それは形を変え……イヤホンになった。


 耳に装着すると、すぐに声が聞こえてくる。


 {接続が4人になったのを確認。ムラサメはうまく接触できたようだな}


 ──エスの声だ。なるほど、これは音声通信タイプの魔皮紙か。


 「{他の皆は、いきなり環境を変えるより村の近くでテントを張って様子を見てるですぞ}」


 ムラサメの声がイヤホンと現実の両方から聞こえて、ちょっと面白い。


 「うん、それもありだよね。いきなり中に入り込むより、外で様子見た方が安心な人もいるし」


 {これから状況を共有する。アオイとムラサメは適当に会話して聞いていてくれ}


 (なるほど……誰かが聞き耳を立てていた場合のカモフラージュってことか)


 「そうですぞ、我が君は流石ですぞ! どんな環境にもすぐ適応するお姿……まさに、天より授かりし完全無欠の存在!神でありますぞ!」


 「はっはっは、言いすぎだよ〜」


 ──適当に雑談しつつ、イヤホンからのエスの報告に集中する。


 {現在、俺は村のすぐ近くで監視をしている。今のところ、特に異常はない。

 ムラサメはアオイの警護役としてそこに居る。……危険を感じたら、そいつを盾にしてでも逃げろ}


 (……盾にしてでも、ってまた怖いこと言うなぁ……)


 {ルカは、誰にも見られないように別の任務を遂行中だ}


 (……別の任務?)


 {現在までに判明している情報を共有する。

 魔族の種類は──『サキュバス族』}


 (さ、サキュバス!? あの……! エッチな夢見せたり、なんかこう……

 男からしたら、ちょっと憧れの……みたいな……あれ!?)


 {そして──

 ヤツらが扱うピンク色の液体。

 これは飲むと、身体に異常をきたす“媚薬”のようなものだ。

 見かけても、絶対に触るな。絶対に、飲むな。}




 …








 {……以上。新たな情報が入り次第、この通信で随時連絡する}











 えーーーっと……え?



























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