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第423話 魔王『ロビン』


 「ん、ん〜〜にゃ……よく寝た〜……」


 今って何時だろ?

 なんだかんだこの世界、ゲームも漫画もないし……依頼がない時ってやること無さすぎてすぐ寝ちゃうんだよね。


 結果――


 「10時か……」


 壁に掛けられた魔法の時計針は、10時6分を指していた。


 ……昨日21時には寝た気がするから、え、13時間睡眠?

 ヨシ!健康優良児!!


 「おはようございますですぞ、我が君」


 「?……って、ほんとに縛ってたんだ……」


 ベッドの上からは見えなかったけど、ムラサメさんは自分で手足を魔皮紙でぐるぐるにして、床に転がっていた。


 なんでそんなことになってるかというと――

 本人曰く、「紳士たる者、男女が同じ部屋に泊まる時は、絶対の安心を相手に与えねばならんのですぞ!」……らしい。


 うん、理屈は立派だけど……俺、元は男だから、その理論に素直に頷けなかったんだよな。


 身体は女だけど、心は男だし……まぁ、そんなこんなで。


 「好きにしてていいよ」って伝えた。


 ――例えるなら、「自販機行くけど何かいる?」って聞かれて「なんでもいい」って答えるくらい卑怯な丸投げで。


 「当然ですぞ。ちなみにこれは自分では解けないので、どうか解いて欲しいのですぞ」


 「紳士だねぇ……えーっと、これがこうで……はい、解除っと」


 「ありがとうございますですぞ!」


 ちなみにこの世界の仮面って、寝る時もそんなに窮屈じゃない。

 元の世界で例えるなら、マスクして寝たら息苦しいとかあるけど――

 こっちの仮面は魔法で呼吸の邪魔にもならないし、装着感ゼロ。寝る用仮面、意外と快適。


 「ところでさ、アイさんって呼びに来てた?」


 「来てませんですぞ。我が君が安心して眠れるように、昨夜この部屋には“侵入感知用”の魔皮紙をあちこちに貼っておいたのですぞ。でも反応は一切なかったですぞ」


 「へぇ〜、じゃあアイさんもそろそろ起きる頃かな?」


 「それはどうですかな。我が君……可能性は、限りなく低いですぞ」


 「なんで?」


 「……昨晩、アイという獣人は、“キング”という男と朝まで夜の営みに耽っていたのですぞ。つまり、まだ寝始めたばかりと推測されるのですぞ」


 「……って、なんで知ってるの?」


 「ふふ、昨夜、この屋敷の防音魔法はしっかり機能していたのですが……建築様式がグリード王国の形式に酷似していたのですぞ。

 だからピンと来たのですぞ。“あれ?もしかして?”と。

 それで、盗聴用の魔皮紙を使ったら――案の定、行けたのですぞ」


 「なるほど……」


 ――アバレーの代表騎士がそんなことして大丈夫なのか?

 ってツッコミたいけど……ここ、獣人の国だからな。人間の法律が通じるとも限らないし……うん、セーフ……?


 「っていうかさ……アイさん、妊娠してるって言ってたよね? それで夜の営みって……すごいな、ほんとにお盛んだよ」


 「その件ですが――エス殿からの連絡で、興味深いことが一つ分かったのですぞ」


 「ん?」


 「どうやら、この村では……全戸で、それが行われているようなのですぞ。一軒残らず、例外なしに」


 「……マジで?」


 その話を聞いて、俺はピンときた。


 ――やっぱり、今回の魔族は“サキュバス”だ。


 「サキュバス族と、何か関係がありそうだね」


 「その可能性は高いですぞ。私たちはこれは“繁栄”と捉えてますが……」


 「繁栄……確かに、そうも言えるか」


 だけど、ちょっと気になる。


 サキュバス族と他種族のハーフって、どうなるんだろう?

 例えば――今回のケース。


 キングの偽物は、十中八九サキュバス族。

 一方で、アイさんはずっとアバレーで普通に暮らしてた獣人だって聞いてる。


 ……でも、そもそもアイさんがどうしてこの村に来たのか、まだ聞いてなかったな。


 今日あたり、うまく話を切り出して聞いてみようか。


 「しかし、ここで吾輩たちは――一つ、疑問が浮かんできたのですぞ」


 「……ん?」


 「“繁栄”と言えば聞こえはいいですが……この村、小さすぎるのですぞ。住人の数も、あまりに少ない」


 「……確かに」


 今までの魔王の拠点――【スコーピオル】や【ライブラグス】と比べると、まるで規模が違う。

 数にして、おそらく1000分の1にも満たない。


 昨日の夕食中に、「他の村もあるのか」と何気なく聞いたが、返ってきた答えは「ここだけ」だった。


 「ですぞ……仮にも、世界を牛耳っていた魔族の拠点。どうにも――腑に落ちんのですぞ」


 「うん……それに、サキュバスって言えば――」


 「シッ……!」


 ムラサメさんが口の前で人差し指を立て、目を細める。


 ピタリ、と空気が凍った直後。


 ――ガチャッ。


 「おはよう! よく眠れたか? ガッハッハ!」


 キング偽物がノックもせず、やけに陽気に部屋へ入ってきた。


 「おはようございます、キングさん」


 「おう! 今日は儀式だったな? まあ、説明より見たほうが早い!」


 「えっ? アイさんが案内してくれるんじゃ……?」


 「そのつもりだったが、今回は……」


 そこで、キング偽物の声が止まる。


 ――まるで、電池が切れた人形のように。


 ピクリとも動かなくなり、その場に立ち尽くしたまま、異様な静けさに包まれる。


 「!」


 「我が君! 下がっていてくださいですぞ!」


 ムラサメさんが即座に俺の前に出て、魔法陣を構えた。


 そして――


 キング偽物は、まるでスピーカーのように、別人の“声”を響かせた。




 「ようこそ、【勇者】。

  私は魔王――ロビン。

  邪魔者抜きで……少し、お話をしましょうか」




 外見はキングのまま。

 けれど、そこにいたのは――まったくの“別人”だった。

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