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第424話 ナニをしてたの

 「ついてきなさい。……言っておくけど、この“器”を攻撃しても、私には一切のダメージはないわよ」


 ――そう言った瞬間、俺は確信する。


 これは、キングが突然オカマ口調になったとか、そんなふざけた話じゃない。


 「……魔王」


 「さっき、そう言ったでしょう? 二度は言わないわ」


 そう言って、キング偽物――いや、“魔王ロビン”はくるりと背を向け、玄関へと歩き出した。


 「隙だらけに見えますが……本物のようですぞ」


 「うん……倒しても意味がない」


 「ですぞ」


 つまり、これは今までの魔族――血を吸って姿を奪う吸血鬼でも、魂を入れ替えるアヌビスでもない。

 少なくとも、彼らには“個の意思”があった。


 でも今回は違う。


 “器”を通して、魔王そのものが――俺たちと直接、対話している。


 「……行こう」


 俺たちは、無言のまま魔王の背中を追う。




 外に出ると、昨日とは空気がまるで違っていた。


 静かだ。妙なほどに。


 ……でも、誰かに見られている。

 いや、監視されている感覚。


 チラッと横を見ると――


 民家の窓。その奥に、何人かの子供たちの姿があった。


 表情が……ない。


 無表情のまま、まるで意思のない人形みたいに、こちらをじっと見ていた。


 「あなたたちの行動も、言動も――全部、筒抜けよ」


 「……え?」


 キング偽物が、後ろを振り返ることなく歩きながら喋り出した。


 「昨日のエスとかいう人間との通信内容。

 料理を食べた後に感覚に耐えきれなくなって……洗面所で、アオイちゃんが“なにをしてたか”――」


 「う……っ」


 顔が一気に熱くなるのがわかった。

 もう、頬どころか耳まで真っ赤だと思う。


 ……お願い、ムラサメさん。聞き返さないで。


 幸いにも、彼は険しい顔で前方に警戒を向けているだけで、突っ込んではこなかった。


 「そんなに照れることないわ。素晴らしいことじゃない?

 この世界で“それ”ができるのは……人間だけ。

 アヤカシも、魔族でさえも――人間の形を取らないと、味わえない感情よ?」


 「……え?」


 「ふふ。気になるでしょう? 私たち“魔族”の本当の存在……この世界の“始まり”が」


 「……それって、どういう――」


 「――さ、着いたわ」




 そう言われて顔を上げると、そこは村の外れ――

 村の入り口からまっすぐ延びる、一本道の終着点。


 木の看板には、ご丁寧にもこう書かれていた。


 「出口」


 その先にあるのは、ただの森林。

 目を凝らしても、森の奥には何も見えない。


 だけど……なんだろう。


 この場所、妙に“静かすぎる”。


 「ふふ……戸惑っているようね」


 キング偽物は、くるりとこちらを振り向き――両手をゆっくりと広げた。


 「……!」


 「っ……!」


 俺とムラサメさんは即座に武器を構え、戦闘態勢を取る。

 だが、その構えに対して――彼女は、微笑んだだけだった。


 「――ようこそ、私の城へ」


 その言葉と同時に。


 村の“出口”の先――ただの森林だった空間が、音を立てて“ひび割れ始めた”。


 バリバリバリッ……と、まるで空そのものに亀裂が入るように。


 砕けた空間の奥に現れたのは――


 漆黒の神殿。


 空を突くようにそびえ立つ、大きく、不気味で、どこか禍々しい“城”。


 「中で……私が待っているわ」


 そう言い残し、魔王ロビンはそのまま神殿の奥へと姿を消した。

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