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第426話 【六英雄】

 「封印されていた……?」


 「ええ、そうよ」


 魔王ロビンは、キング偽物の頭の上でふにゃりと縦に伸び、ぽよんと揺れる。


 「……一体、誰に?」


 “魔王クラスの存在が封印されていた”――その事実に、アオイの思考が一瞬止まる。


 「【六英雄】達よ」


 「六英雄……」


 その名に、聞き覚えがあるような、ないような――微かな記憶が揺れる。


 「人間界でも、ちょっとくらいは名前くらい聞いたことあるんじゃない?」


 「うーん……ほんの少しだけ、名前だけ……そんな感じかな」


 「でしょ? でもそれが逆におかしいのよ」


 ロビンは、揺れる身体でピタリと動きを止める。


 「人間は、ずっと“管理されてきた存在”。

 その中で、六英雄の名前が今も人間界に“少しでも”残っているのは、不自然なの」


 「……?」


 「こっちの世界では、六英雄は誰もが知ってる“伝説”。

 私を封印したってこともあって、尊敬も恐れも集めてる。

 でも――人間たちは、その存在をぼんやりとしか覚えてない。面白い話よね」


 「それで……その六英雄って、どういう人たちなの?」


 「“人”じゃないわ。

 六英雄は、全員が魔族。特別な力を持つ、異端の存在たち。

 それが集まってできたのが、六英雄」


 「特別な力……?」


 「ええ。残念ながら、どんな能力を使っていたかは――よく覚えてないの。

 封印の影響か、時間の経過か……そのへんは、さすがに私にも分からないわ」


 「……」


 「でも――気になるでしょ? 六英雄のこと」


 「……まあ、うん。ちょっとは」


 アオイの胸の中には、かすかな希望があった。

 自分たちの他に、魔王と敵対する存在がいる――

 それが“敵の敵は味方”である可能性もあるかもしれない、そんな期待。


 しかし、次のロビンの言葉が、その淡い幻想を吹き飛ばす。


 「――残念だけど。私を封印したからといって、あなたの味方ってわけじゃないわよ?」


 「……えっ」


 ロビンは淡々と、でも断言するように続ける。


 「私は心を読む力は持ってないけど――

 仮にも魔王。相手が“今、何を考えたか”くらい、空気で分かるわよ」


 「……っ」


 アオイは言葉を失った。

 ――味方とは限らない。それどころか、次に相対する“敵”かもしれない存在。


 「【六英雄】……彼らは、“世界から戦争を無くす”ために生まれた集団」


 「戦争を……無くす……?」


 「ええ、最初にも言ったでしょ? この世界では、魔王たちが“人間の管理権”を巡って果てしない戦争をしていたの。

 その中に突如現れて――戦場を“めちゃくちゃ”にして、消えるのよ」


 「めちゃくちゃにって……どういう意味?」


 「ふふ、例えば――」


 ロビンはゆっくりと語り始めた。


 「私を封印したのも彼ら。

 他には、戦っていた両軍の“食料”を一夜でごっそり消したとか――

 兵士を、一人を除いて“全員”殺したとか、ね」


 「そ、それは……確かに……めちゃくちゃ、だね……」


 (いやいやいやいやいや!? 規模が違いすぎるだろ!?)


 アオイは表情を保ちながらも、心の中で全力のツッコミを入れていた。


 魔族同士の戦争……その兵力は、常識では測れない。

 そしてその兵士を養う食糧だって、数百万人単位で動かすレベル。

 それらを“まとめて消す”なんて――スケールが違いすぎる。まるで、自然災害のような存在。


 「そう、六英雄のおかげ……って言うと少し癪だけど。

 彼らは瞬く間に“名を上げ”、世界中から“恐れられる存在”になったわ」


 ロビンの口調に、ほんのわずかな棘が混じる。


 「そして彼らは……“魔神様”のもとにまで辿り着いた」


 「魔神……? その後、どうなったの?」


 「……それは、私にも分からない」


 ロビンが静かに言葉を区切る。


 「その時には――私はすでに、封印されていたから」


 アオイは息を呑む。


 ロビンほどの魔王でも、六英雄に“排除”され、世界の中心から外されていたのだ。


 「でも、それ以降――魔王たちは戦争を止めた。

 そして、“人間の管理”は、3人の魔王によって担うことになったの」


 「……その3人って」


 「ええ、聞いたことあるでしょう?

 【スコーピオ】、【キャンサー】、【ジェミニ】。

 それが、人間管理を任された“三柱”よ」


 「うん、そのうちの一人は――よく知ってる」


 アオイは静かに呟いた。


 かつて自分たちが、最初に対峙した魔王たち。



 「そして今、人間は私達の管理を外れたわ、誰がそうしたか?ねー、アオイちゃん」


 「……」


 アオイは言葉を失ったまま、ただロビンを見ていた。


 「あなたたちは、“人間”という種族でこの世界に“戦争”を仕掛けたのよ」


 ロビンの声は、静かに響く。


 「理由はどうであれ、現実として――あなたたちは、魔王たちを次々と倒している。

 世界を征服していた“支配者”たちを、ね」


 「……」


 「六英雄があなたたちに“目をつける”のは、時間の問題よ」


 そう――ロビンが言いたいのは、こういうことだ。


 六英雄は、世界の“秩序と平和”のために戦う存在。

 人間が今まで狙われなかったのは、ただ大きな動きを見せていなかったから。

 だが、魔王を倒し、“世界の均衡”を壊し始めた今――


 狙われるのは、“勇者”自身。


 つまり、悪役はアオイたちだ。


 「……つまり、君を倒したら、“余計なリスク”を背負うから倒すなって話?」


 「ふふっ――半分正解。半分はずれね」


 ロビンは、キング偽物の頭の上でぽよん、と小さく弾んだ。


 「でも、ここまで話して――やっと本題に入れるわ」




 ロビンは、キング偽物の体を操り、ゆっくりと手を伸ばす。








 「私を――あなたたちの仲間に入れてほしいの」

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