「どうしてアイさんが……!」
目の前でアイさんが槍を構えて、こちらに突進してくる!
「我が君、下がっていてくださいですぞ!」
「う、うん……!」
「それと今すぐエス殿たちに連絡を!」
俺に振り向いたムラサメさんへ、アイさんが一瞬で距離を詰め――槍を振りかぶる!
「危な――!」
言い終える前に、ムラサメさんは鉤爪でその槍を受け止めていた。
「その鉤爪……まさか!」
「アバレー騎士の隊長ごときが、私に槍を向けるとは……良い度胸ですぞ」
攻撃を弾かれたアイさんは空中でくるりと一回転して着地する。
ふぅ……ムラサメさんがやられなくてよかった。……って、そんなこと言ってる場合じゃない!
魔皮紙、魔皮紙!
「{もしもし!みんな、聞こえる?}」
{ああ、聞こえるぞ}
すぐにエスの声が返ってきた。
「{緊急事態だよ! 今、アイさんが僕たちを襲ってきて――}」
{分かってる。こっちも交戦中だ}
「{交戦中? 誰と?}」
{“村の獣人たち”だ}
「{そんな……どうして僕たちを――}」
{魔王はどうなった?}
「{……魔王は、死んだよ}」
{それなのじゃ!}
「{ルカ!?}」
通信に割って入ってきたのは、ルカの声だった。
{何か分かったのか?}
{うむ、タイミング的にも合っておる。アオイ、聞くのじゃ}
「{う、うん}」
{ワシは任務のため、サキュバスの子を一人、捕らえておった。だが、突然苦しみ始めて、そのまま――死んだのじゃ}
「{それって……}」
{うむ。魔王の死と関係があると、ワシは思っておる}
――ロビンの繁殖方法は、人間と同じ。
もしロビンが“消えた”ことで、彼女の要素が消滅したとしたら……
「{ま、まさか……}」
どれだけの被害が出たのか分からない。
考えたくもない。でも、罪もないあの子供たちが……!
{しっかりしろ、アオイ}
「{う、うん……ごめん}」
{魔王を倒すのは、勇者の役目だ。お前は、それを果たしただけだ}
「……」
{だから――あとは俺たちに、任せろ}
「{任せろって……獣人たちを“殺す”ってこと?}」
同じ人間を――否、同じこの村で暮らしていた人たちを。
戦っていること自体、おかしいんだ。
{……お前次第だ}
「{僕が……?}」
{さっきの“任せろ”って言葉――取り消す。
命令を出せ。どんな命令でも、俺たちは遂行する}
「{……信じていいんだね?}」
{ああ}
俺は、覚悟を決めて言った。
「{……各自、相手を殺さずに戦闘不能にして、捕らえて……えっと……ください?}」
ちょっと締まらなかったけど――返ってきた声は、しっかりしてた。
{了解}
{余裕なのじゃ}
「了解ですぞ、我が君!」