《セクシアル村 跡地》
「……これは、どういうことさね」
アオイたちが去ったあと、そこに残されていたのは――
瓦礫と化した村の建物だけだった。
それから少し遅れて、別任務で動いていたルダが到着する。
「明らかに……争った形跡があるさね。
けど、いったい誰がこんなことを……」
周囲に何か手がかりがないかと、村をゆっくり歩くルダ。
だが、焼け跡も魔力反応も、残っていない。
「ここに無いってことは――あそこしかないさね」
ルダの視線が向いたのは、少し離れた場所にそびえる、あの“神殿”。
「よっ、と」
ふわり、と。
ルダは、醜くて――でもどこか美しい翅を広げ、
ゆっくりと空へ舞い上がる。
神殿の周囲をくるくると旋回しながら、視線を巡らせていたその時――
「……この建物だけは、綺麗なまま……ん?」
神殿の前に、見覚えのある魔力の痕跡が残されていた。
「まったく……あいつらも来てたのかい?
私をのけ者にして、グリードの女王のところへ行くとか言って嘘をついてたさね!
若いもんは自由でいいさね! 年寄りは寂しいと寿命が縮むんだよ!」
ぷりぷり怒りながら、懐から通信用の魔皮紙を取り出す。
「{さっさと出るさね!!}」
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《サンルナトーン》
「……お、通信だ」
「は? 俺たちには“通信すんな”って言ってたくせに、ルコさんだけ受信できんのはどういうことだよ? 殺すぞ」
「まぁまぁ、クロ」
「はん……まぁいい。で? さっさと出ろよ。どうせルダだろ?」
「ま、たぶんね」
{さっさと出るさね!!}
「{ごめんごめん、こっちも立て込んでてさ}」
{なーにが立て込んでてさね!! 年寄りを仲間外れにしおって!!}
「{ん? 何言ってるのさ?}」
{お前に言われた通り、サキュバスの村にアオイたちを導くために来てみたら……すっからかんさね!!
で、何か無いかと探ってたら――オリバルの魔法弾の痕跡、あったさね!}
「{ふ〜〜〜ん……}」
{何が“ふ〜〜ん”さね!? 壊滅させるならさせるで言ってくれれば無駄足せずに済んだんだよ!!}
「{いや、その件は……俺、何も聞いてないんだけど?}」
{……は?}
「{ちょっと待ってて}」
ルコサはその場を動かず、
少し離れたところで血まみれの装備を洗っているオリバルに声をかけた。
「ねぇー、オリバルー。
ちょっと前、なんかよく分かんない動きしてたよね〜?」
「……」
「それって……もしかして“神の声”、聞こえてたり……?」
「……秘密だ」
「あ〜〜、うん、秘密ね。はいはい、おっけ〜♪」
そのまま通信に戻る。
「{犯人オリバルだったわ。でも、俺たちは村には行ってないから安心して}」
{どういうことさね……}
「{オリバルの持ってる武器は、“心を持つ神の武器”だ。
おそらく、神が直接命令を出して、そっちに向けて――狙撃したんだろうね}」
{……はぁ、もう驚かないさね。
でも一応、聞くさね――その位置から、ここまで……何キロあるさね?}
「{えーっと……。
ここはグリードの南端の町から、さらに南へ700キロ。
だから、ざっと――“17,000キロ”かな}」
{軌道上にいた物や人は……どうなった?}
「{人間だけは、神の力で軌道上から退避させてる。
でも、魔物や建物、木……そっちは、多分、全部貫通だね}」
{……一体、何を撃ったっていうさね……}
「{さぁね。
でも、神が“俺を通さずに”オリバルに命令したって時点で――
よっぽど、焦ってたんだろうね}」
{……神のシナリオに、イレギュラーが発生したとでも?}
「{うーん……
これまでもイレギュラーなんて山ほどいた。
でも今回だけは――“神が、無理やり自分の思い通りにした”。
その結果が、これ}」
{だったら最初からそうすれば良かったさね。今になって、何を……}
「{神の考えなんて分かんないさ。
でも――}」
{……でも?}
「{――もうそろそろ、“終わり”が近いんだろうね}」
そう言ったルコサの手には、
――この地、《サンルナトーン》の魔王の“首”が、ぶら下がっていた。