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第441話 お疲れ様!乾杯!

《アバレー王国 アオイ家》


 「お疲れ様のかんぱーい!」


 「カンパイなのじゃー!」


 「ですぞー!」


 「……」


 アイさんと、そしてあのよく分からないモノリスのような宝石の数々を運び終えた俺たちは、それらをムラサメさんに預けて、アバレーの騎士団へと引き渡した。


 いやほんと、ムラサメさんの信頼ってすごいよね。

 俺が「時間が経てば元の姿に戻るよ」って言っても誰も信じてくれなかったのに、ムラサメさんが同じこと言ったら即・納得だもんなぁ……やっぱり代表騎士の格は違うわ。


 「それにしても、何だかんだで時間かかっちゃったね」


 帰ってくるまで、結局一ヶ月もかかってしまった。


 というのも──


 「仕方ないですぞ。行きは吾輩たちだけでしたが、帰りは荷物が山盛り、

  しかもルカ殿が手負いで、休み休みの帰還だったですぞ」


 「う、うぐ……油断したのじゃ……」


 「まさかアイさんが【ドラゴンスレイヤー】なんて伝説級の武器を持ってたなんてね」


 「ルカ殿には効果はてきめんですぞな。

  しかも回復用の魔皮紙を“無効化”するとは、初めて見たですぞ!」


 「おかげでめちゃくちゃ痛い思いしたのじゃ……」


 「え、やっぱり? 歴戦のクリスタルドラゴンでも痛いんだ?」


 「当たり前なのじゃ。じゃなきゃ鱗を硬くする意味ないのじゃ!」


 今は服で隠れているが、ルカのお腹と背中には生々しい縫い跡が残っている。


 もちろん裁縫セットなんて持ってるわけもなく──

 俺が着ていたインナー素材、《神の糸》を操作して縫合してもらった。


 ……もらった、っていうのは、俺には裁縫の知識もセンスも皆無だから。

 そのへんも汲み取ってくれる、ホント優秀な武器だよな、こいつ。

 「外はともかく、中はもう大丈夫なの? 内臓とかさ」


 「一応、中もお主の糸で縫ってもらったのじゃ。

  時間が経てば、くっつくじゃろう」


 「ふーーーん……」


 そんな話をしながら、俺はジョッキに口をつけて酒を飲む。


 そう、今回俺の家で開催されているこの飲み会は──

 実は“会議”である。


 前にも言ったけど、俺はその場で色々整理できるタイプじゃない。

 こうして落ち着ける“セーブ地点”が必要なんだよな。

 ……まぁ、酒はほどほどにしとかないと翌日忘れるんだけど、

 ほどほどに飲む分には、むしろ頭の回転が良くなる……はず!


 「ところでエス、どうしたの? ずっと黙ってるけど」


 「……いや、考え事だ」


 「考え事? 言ってみなよ。僕たちはパーティーだよ? “三本の矢”でしょ」


 「三本の矢……?」


 「なんか、三本の矢だと折れにくいっていう、そういう感じのことわざ」


 「……よく分からないが、この槍のことで気になってな」


 エスは、すぐそこの壁に立てかけられた《ドラゴンスレイヤー》を指差す。


 「これがどうかしたの?」


 「いや。これは確かに“伝説の武器”だ。

  だが──なぜ、あいつが持っていた?」


 「そりゃ、魔王がいる世界なんだから、

  伝説の武器の一つや二つあってもおかしくないでしょ」


 「……そんなものか? だが仮に、これを“意図的に”アイツに渡した者がいたとしたら?」


 「まさか〜。ハハ、ルカの正体が分かってて、

  その対策として渡したとか? そんなの未来が分かってないと無理でしょ〜」


 「……」


 「考えすぎだって! たまたまあって、タマタマそれを使ったんだよ〜」


 俺はジョッキをぐいっと傾けながら、くだらないことを口にする。


 ──まぁ、今の俺にタマタマないんだけどね! タマタマ!


 「酔っているのか?」


 「いや、ほろ酔いかな? リミットが外れてるだけ」


 「……それは酔っているんじゃないのか?」


 「ノーノー! “ほろ酔い”はまだ記憶があるからセーフなの!」


 「……」


 「我が君! そんなことより本題に入るのですぞー!」


 「あ、うん! そだねー……じゃあ、ちょーっと長くなるから……えーと、気をつけて?」


 「はいですぞ!」


 「“気をつけて”って……お主らしいのじゃ」


 「フン……」




 「うん、とりあえず──

  魔王とのことと、今回僕の身体に起こった異常について話すね。

  そして……もう1人の“僕”が出たときのことも。

  ムラサメさん、そこはお願いします」




 こうして俺は、一つひとつ思い出しながら語った。

 そしてムラサメさんも、あの時に現れた“もう一人の私”について話してくれた。


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