「ここまでで、質問ある人ー!」
そう言うと、見事に三人が同時に手を挙げた。
……うん、そりゃそうだよね。
とりあえずお酒をひと口……っと、じゃあ順番に捌いていきますか!
「はい、じゃあルカから」
「その話じゃと──今回の件で【神】はワシらの“敵”になった、ということじゃな?」
「確かに、今回初めて僕は……この服の【糸】を通して神に身体を操られた。
普通に考えたら、敵って思っちゃうよね」
「のじゃ?」
「でも、こうも思えるんだ……
“どうしても、そうする必要があったんじゃないか”って」
「つまり、ロビンとやらを殺す必要があった……ということなのじゃ?」
「うん。僕はそう思ってる。
それには【勇者】と【魔王】の関係が絡んでるんじゃないかって」
「ふむ?」
「──あれ? そういえば……僕が異世界から来てるって、知ってたっけ?」
「今更なのじゃ」
「今更ですぞ」
「今更だな」
「お、おぅふ……話が早くて助かるよ。
僕の世界では、【魔王】を倒すのはいつも【勇者】なんだよね」
「お主の世界の勇者とは、どんな存在だったのじゃ?」
「あ、ごめん、それ……ゲームの話なんだけど……」
「ゲーム? なのじゃ? すまぬが、人間になったばかりで、そこら辺はまだ疎いのじゃ」
「ゲームと言えば……ミクラル王国で言うところの“チェス”でしょうか」
「チェスあるんだ」
「アバレーで言うと、“将棋”みたいなものですぞ?」
「将棋あるんだ……。
まぁ、よくよく考えると、僕もカジノで奴隷やってたことあるし──」
「──あっ! テレビゲームって誰か知ってる!?」
「……」
「……」
「……」
「あ、うん……知らないのね……。
えーっと、勇者の話だよね。僕の世界では……」
──あれ? ここまで話してて思ったけど、これって……失礼じゃない?
俺の世界には魔物なんていなくて、勇者なんて“ゲーム”でしか存在しない。
そんな説明聞かされたら、彼らはどう思うんだ? 馬鹿にされてるって思わない……?
今更だけど……ちょっとそういう気がしてきた。
うーーーーーーーーーーーーーーーん……
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……
「ぼ、僕の世界の勇者は……将棋ゲームに例えると、“王”だね!
周りのみんなを動かして、時には自分も前に出たりするんだ!」
──うん! 我ながら、チグハグだな!
「なるほどなのじゃ!」
あ、この人納得してくれた。
他の二人も、なんとなく理解しようとしてくれてる……っぽい。
まぁ異世界の話なんて、今みたいに“嘘つき放題”だもんなぁ。
あんまり深掘りされないように気をつけよう……。
「それで? それとこれと……何が関係あるのじゃ?」
「さっきの説明からすると──
“王”は【勇者】で、“相手の王”が【魔王】。
そして“王は王でしか取れない”と仮定したら──
【勇者】である僕を、神は“駒”として動かす必要があった」
「なるほどなのじゃ。
でも結局、とどめを刺したのはお主じゃないのじゃろう?」
「うん。そこで──さっきのムラサメさんの話に繋がる。
もう1人の“僕”──つまり“女神”が、神の操作に“抵抗”したんだ。
駒である僕を、“別の手”が操った。それが異常事態」
「つまり、盤上がぐちゃぐちゃになったのじゃ?」
「うん。そして、盤上の全てのルールを無視して叩き込まれた一手、それが──【神の一撃】」
「【神の一撃】……ほほう」
……うん、自分で言っててちょっと恥ずかしいネーミングだったな。
「それをしなきゃ行けないほど、あの状況は異常だった……とも考えられる。
だとすれば、神は僕に魔王を倒させたいだけで“敵”と断定するのはちょっと違う気がしてね」
「確かに、本気で敵と見なしていたなら──
お主の【糸】を完全に消していたはずじゃ。
微弱とはいえ、まだ力を貸してくれている……」
「そう、それが僕の考え──理由はそんなとこかな」
「……分かったのじゃ」
「それじゃあ、ムラサメさんは?」
「はいですぞ。我が君──まずは吾輩の油断により、お手を煩わせてしまったこと、まことに申し訳ありませんでしたですぞ!」
「ま、まぁ……あれは仕方ないよ。
相手は《龍牙道場》の究極奥義を使うほどの人だったし。
技のキレも反応も何もかも完璧で、何が来るか知ってなきゃ対処は無理だよ」
……うわぁ、なんか偉そうだな俺。
でもムラサメさん相手には、ちょっと偉そうに言った方が納得してくれるから、話がスムーズに進むんだよな。
「は、はいですぞ……!」
ムラサメさんはこくこくと頷き、それから話を続ける。
「それで──吾輩たちが気絶し、ルカ殿が瀕死となった間、我が君は戦い続けていた。
その際、『女神の魔法』を使用された……とおっしゃっておりましたですぞ?」
「……うん」
アイさんと戦っていた時、俺の中で“怒り”が抑えきれなくなった。
よく分からないけど──あれは明らかに『怒り』がトリガーになったんだ。
「その魔法……今でも使用可能なのですぞ?」
「うん、使えるよ。
あのときの感覚、ちゃんと覚えてる。
僕の適性魔法『魅了』を使う時と、すごく似てたからね」
「そうですぞか……。では、あの魔法の能力は──」
「“僕が受けたダメージと同じ苦痛を、相手が“意思して”受ける”ってやつだよ」
「ふむ……なるほど。であれば、あまり出番はないかもしれませぬですぞ」
「ん? どうして?」
「なぜなら……! 今後は吾輩が、断じて油断せず!
我が君を──決して傷つけさせぬよう守り抜くからですぞ!!」
「う、うん……頼りにしてるよ」
「おおおおぉ……!! 我が君……!!
そのお言葉……! この吾輩めに……!
再び、忠義の機会をお与えくださるとはですぞおぉぉ!!」
ああ……また号泣してるな、たぶん。
仮面だから見えないけど、ほぼ確実に大泣きしてるやつだ、これ。
「えーっと、最後にエス」
「俺から聞きたいのは一つだ、これからどうする?」
これから、か。
ロビンの話を聞いている時からそれは決まってる。
「うん、それはもう決めてる」
「僕達は魔神に会いに行く」