《数日後》
朝日がのぼり、空気がじわじわと熱を帯びてくる昼前──
時間にして、たぶん11時頃。
俺は、いつもの装備に身を包んでいた。
「よし……完璧!」
体調も万全! 気分も良し!
現在、家にいるのは俺だけ。
他のみんなはそれぞれ用事で出ていて、今は自由行動だ。
「一応、通信用の魔皮紙は預かってるから、
連絡を取ればすぐ来てくれるらしいけど……」
基本的には、各自自由に動いていていいらしい。
人手が足りなくなった時や、何かあった時は呼び出しが来る。
……うん、チームで動いてるって感じがして、なんか嬉しいな。
「ふふっ……こうやって、自分の目標に向かって、
みんなで力を合わせてるって、いいよね」
──まぁ、動こうとした矢先に体調崩して、
一週間くらい寝込んでたんだけどね!
そこは……気にしない。女になった代償ってやつだ。
「さて……やることは山積みだけど、
まず最初にやるべきは……“アレ”だよね」
……そう。
この間、“怒りに任せて”やっちゃったこと──
エスに謝らなきゃ。
思い出すたび、後悔で胃が痛くなる。
なんで、あんなことで怒っちゃったんだろ……?
ちなみに、エスはあの日、顔を真っ赤にしてそのままどこかへ行ってしまった。
その日はイライラしてて気にも留めてなかったけど──
今になって考えると、もう少し言い方とか……
オブラートに包んで教えてあげるべきだったなぁって……。
「……ほんと、つまらないことで怒っちゃったなぁ」
でも、ふと思う。
そもそも、ああいう“女の体のこと”って、誰が教えるんだろう?
「やっぱり、親が教えるのかな……?」
まぁ、考えたって仕方ないか。
エスみたいなタイプは、お酒も飲まないしあんまり喋らないから、
本当のところが分からないんだよなぁ。
俺の記憶をたどって思い出すのは──
あんな風に固くなる前の、あの子の姿。
リンの……あの、優しい笑顔。
「あんなに、あったかい笑顔を見せてた子だったのに……」
でも──人は変わる。
奴隷商で、何があったのかは分からないけど、
……俺も、それを身をもって経験した。
だからこそ、
今のエスを、ちゃんと見てあげたいって思う。
「僕が……あの時のことを聞かれたくないように、
エスだって、聞かれたくないよね。
だから──今のエスをそのまま受け入れるのが一番いいな」
──うん、そう決めた。
「……てことで! 考えよう!」
うーん……これまでのエスの行動で、何かヒントはなかったかな……
「……待って。僕、もしかして……エスのこと、何にも知らない……?」
思い返せば、仕事が終わるといつも真っすぐどこかへ行ってしまうし、
この前の飲み会だって、たぶん俺の“方針確認”のために仕方なく参加しただけ。
エス自身のことは、全然分かってない。
「……よし。ならば“知る”ところから、始めよう」
俺は魔皮紙を取り出して、エスへの通信を開いた。
「{もしもし、エス? ちょっと……付き合ってほしいんだけど}」