「ぐ、ぁぁぁあああぁぁああああ!!」
痛い!
苦しい……ッ!
全身の芯――骨でも神経でもない、もっと深い“核”が、ハンマーで叩き潰されているようだ。
いや、違う。これは――壊されている。
「拒否反応ですね。あなたの魂は今、神の加護による『規格』を拒絶しています。ですが喜んでください。これが出るということは……“適性がない”最悪の事態は回避されたという証拠です」
適性? ……どうでもいい!
ぐ、あ……頭が、焼ける……!
「ッ……ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
焼ける、焼ける!
内側から!脳が、皮膚が、骨が……全部が煮えたぎってる!
熱い!熱いッ……!
「暑い、あつい、あついあついあついあついッッ!!」
鎧が邪魔だ!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!
「おや、鎧が脱げないんですね? お手伝いしましょう」
パァン!
レイロウが軽く指を鳴らした瞬間、鎧が音もなく“粉砕”された。
でも、まだだ。まだ暑い、まだ苦しい。
「がぁぁぁああああああああああッッッ!!」
――裂けた。
皮膚が、肉が、自分の内圧に耐えきれず破裂した。
血が。赤黒い液体が全身から吹き出す。
何が起きてる?
俺の身体は、どうなって……!
死ぬ。
そう確信した瞬間、焼けつくほど熱かった体温が――スッと、引いた。
冷たい。
氷のような静寂が全身を包みこむ。
目の前が真っ白になる。
音が、色が、思考が……全部、遠ざかっていく。
――あぁ……俺、死ぬんだな。
…………………………
………………
……
――突如、俺の頭の中に“知らない記憶”が流れ込んできた。
ショウが――喰われる。
動けない俺に、メルピグの牙が迫る。
だがそこに、35番さんはいなかった。
俺たちが殺される――その場面を見て、怒りに震えるヒロユキさん。
彼は見たことのない黒い刀を抜き、たった一閃でメルピグを斬り伏せる。
……そして、その場に膝をつき、1人で静かに泣いていた。
――知らない。
俺は、こんな記憶を知らない。
でも“それが何か”だけは、ハッキリと理解できた。
これは__
【神の用意していたシナリオ】
俺たちが、踏み台にされる未来。
喰われ、殺され、神にとって“予定通り”の結末。
――ふざけるな。
心の底から、怒りが湧き上がる。
俺は……見捨てられた。
俺だけじゃない、ショウも、仲間も――生きた意味すら奪われた。
「……くそが……くそがぁぁぁああああ!!!」
全身から吹き出していた血が、まるで意思を持つかのように肌に戻り、纏わりつき――硬化していく。
____そして。
「…………」
目を開けると、俺は――見たこともない漆黒の鎧を身に纏っていた。
「……おめでとうございます」
レイロウが、嬉しそうに口角を上げる。
「……お前たちの目的は、なんだ?」
「私も……あなたと同じ。神に、運命に、見捨てられた者です」
「…………そうか」
怒りの熱は、もう胸の奥に沈んだ。
冷たい、けれど決して消えない核として。
「……名前を、お伺いしても?」
「名前……?」
脳裏に、ショウの笑顔が浮かぶ。
絶対に――忘れない。
「俺は……エス」
「では、エスさん。あなたが歩む未来のために……『我らのボス』へ、お通ししましょう」
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《クローバー山 山頂》
「エス! 取れたよ! これでクリアだね」
メルキノコを手に、笑顔で駆け寄ってくるアオイ。
その姿は、いつ見ても変わらず――美しく、愛しい。
「……あぁ。そうだな」
俺は、静かに頷く。
この人のためなら――命すら惜しくはない。
「根本は残してきたから、また生えてくると思うし、メルピグは痺れさせただけで死んでないよ!……大丈夫、だよね?」
「……あぁ。大丈夫だ」
その笑顔を曇らせないように。
誰よりも優しい君が、また傷つかないように。
――たとえ、世界がお前を見放したとしても。
俺だけは、ずっと……お前の味方でい続ける。