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第470話 伝承・新たな力!


 「儂は気絶していたのか?」


 「はい、ごめんなさい、クナイの方も前と違って新しくなってて……まさか師匠が2日寝込むとは思わなかったです」


 「ふむ、儂も数々の毒をくらってきて鍛えられてるはずだが、ここまで強力だとはな」


 「あ、はは……それと、もうひとつ」


 アオイはお酒を飲みながら話を続ける。


 「?」


 「さっきの紋章を知ってるかどうのってどういう事ですか?」


 「ふむ、これか」


 師範の手の甲に紋章が浮かぶ。


 「はい、何か懐かしいような……」


 「懐かしい?」


 「いえ、自分でも変なこと言ってると思ってるんですが、そんな感じがするんです」


 「ホッホッホ……これも運命なのかもしれぬの、教える前に聞きたいことがある」


 「はい?」


 師範もお酒を1杯飲み、口を潤す。


 「アオイ、正義とは何だと思う?」


 「え?」


 「……」


 アオイは聞き直してしまったが、師範は黙ってアオイの目をじっとみる。


 「…………そうですね、僕が思うに正義とは……」





 「“心に決めた道”だと思います」




 「ほう?」


 「正義に答えなんてないと思います、例えば、この山に居るアヤカシの【団子蜘蛛】が罠をはっててそこに【丸鉢蝶々】がかかってるのを見て蝶々を助ける人が居るとしたら、団子蜘蛛の方が可哀想だと言う人が居ます……お互いに間違っていないと思うんです僕は」


 「それぞれが決めた道を歩いてる結果だと?」


 「そうです、どっちも間違っていないからそこで喧嘩が起こる」


 「お主はどうするんじゃ?」


 「そうですね……時と場合によりますが相手の主張に合わせる事が多いです、だけど」


 「だけど?」


 「絶対に譲れないなら土下座してでも通します……全力を出してダメならキッパリと諦めます」


 「…………」


 「……師匠?」


 アオイが静かに呼びかけると、師範は目を閉じ、しばし何かを考え込むように黙り込む。


 そして次の瞬間──


 「ぐわっはっはっはっはっはっはっは!」


 目をカッと見開き、豪快に笑い出した。


 「え!? し、師匠!?」


 「はっはっはっはっ……げほっ、げほっ……がっ、がはっ!」


 「む、むせてるじゃないですか!?ほらっ、水……じゃなくて、お酒しかないけどっ」


 アオイは慌てて師範のお猪口に再び酒を注ぎ、そのまま差し出す。


 「んぐっ……ぷはっ……! あぁ、効くな……ふはは……まさか、こんなガキに“答え”を教えられるとはな」


 「ガ、ガキ!?」


 「“正義とは何か”儂はそれを何百年も探していた」


 「……何百年も……?」


 「うむ。だがな、そりゃ見つかるはずがないわ……正義は“誰か1人”の中にあるものではない。人間、魔族、その一人一人の数だけ“正義”はある……それを教えてくれたのは、お前じゃ」


 「……!? ま、魔族のことを、どうして……」


 「儂も……魔族じゃよ」


 「え……!?」


 アオイがぽかんと目を見開いたまま固まっていると、師範はゆっくりと手を差し出した。


 「アオイ……手を、出してみい」


 「……は、はい」


 アオイは右手を差し出すが──


 「グローブは……外せ」


 「あ、はいっ」


 言われた瞬間、アオイの装備は“宝石の状態”へと戻り、シュルッとパージ。結果、パンティー一丁になった。


 アオイは左手で胸を隠す。


 「…………なぜ裸になるのだ」


 「すいません、この装備、部分的な解除できなくて……」


 「……まぁ、いい」


 少し困ったような顔をしつつも、師範はアオイの右手をそっと取って目を閉じた。


 「………………」


 「…………」


 やがて、師範が低く、力強く呟く。


 「お前の……正義を、信じておる」


 その瞬間、アオイの手の甲にある紋章が強く光を放ち、師範の掌からその光が流れ込む。


 ──師範の“記憶”が、アオイの中へと注がれていく。


 「ま、まさか……師匠が……」


 光が消えると同時に、紋章は完全にアオイへと移り、師範はぐったりと汗を流していた。


 「師匠っ!」


 「……だいじょうぶじゃ……少し……休めば……よい……」


 師範は苦しげな呼吸を整えながら、それでも微笑む。


 「……お前には、もう分かっておろう。どこへ行けばいいか……」


 アオイは静かに頷いた。


 ──紋章が“導く先”を、確かに感じ取っていた。


 「紋章は……その者によって、宿す“力”が変わる。お前の力は……」


 そこまで言いかけたところで──


 「……っ!」


 師範が気づくと、いつの間にかアオイの姿はそこになかった。


 代わりに、テーブルの上にあった料理は綺麗に片付けられ、お茶とコップが置かれている。


 「……『神速』か」


 呟きとともに、師範は静かに目を閉じた。








 そして______



 「疾風参上!」




 《六英雄》アオイが誕生した。






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