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第471話 力のぶつかり合い!  

 「新しく《六英雄》の一員になりました、『女神』のアオイです。よろしくお願いしますっ♪」


 アオイが笑顔で名乗った瞬間──その場の空気がピンと張り詰めた。


 「……大将、お膳立てはしておいたぜ、おい」


 「え?」


 「あぁ、おい?そもそもアンタとこうやって直接会うのは初めてだな。俺は“アンタの部下”で、《六英雄》の称号を持ってる。……ムラサメの野郎から聞いてたろ?」


 「あっ、そうか!あなたが、例の……!」


 その会話を遮るように、ウジーザスが一歩前に出る。


 「……『女神』を名乗るとは……その言葉の意味を理解しているのですか? “新人さん”」


 その声音には明らかな“殺気”が含まれていた。


 しかし、アオイは一切怯まずに、まっすぐその視線を受け止める。


 「だって、ほんとのことだから仕方ないでしょ?」


 にっこりと笑って、さらりとそう返す。


 ウジーザスの表情が、ほんの僅かだけ動いた。


 「……そう。仕方のないことですね。ならば、これもまた“仕方ない未来”なのでしょう」


 「未来?」


 ウジーザスは視線を月に移し、ぽつりと呟く。


 「この未来が選ばれた時点で、過去はもう戻れないのです。あなたが何者であれ──すでに物語は始まっている」


 「? よく分からないけど、六英雄はこれで全員?」


 「はい。其方に居るのが『武神』のトミー、そして此方に居るのが『珍神』のマーク、『暗殺神』のレナノス、『治癒神』のたまこ……そして私が『運命神』のウジーザスです」


 「神様のバーゲンセールって、どっかの王子が言っちゃいそうだよね? なんか紫のコアに白い肌……いろいろ似てるし、オマージュか何か?」


 「あなたにその力を与えた者はどうなったんですか? 彼があなた如きにやられるとは思いませんが」


 「師匠なら、僕の部屋で寝てるよ。殺してはない」


 「……そうですか」


 ウジーザスは何気なく、地面に刺さっていた小さなナイフを拾い、ふわりと上に放り投げた。


 「?」


 「では、アナタも見たのでしょう。私のメッセージを」


 「うん。ここに来るまでに、ちゃんと見させてもらったよ」


 「こうなった以上、仕方ありません。私達と協力して、勇者二人を殺し――」


 「断る」


 「……だと思いました」


 「それより僕の話を聞いてほしいんだけど__」


 「大将!」


 「!?」


 トミーが叫ぶ。次の瞬間、レナノスの姿が消えていた。


 ――気づけば、アオイのすぐ背後。


 容赦なく小刀を振りかぶり、アオイの首筋へと迫る。


 「ちっ!」


 トミーは咄嗟に長槍を構えてレナノスに突きを放つが――


 「遅い」


 既に、レナノスの小刀はアオイの喉元まで達していた。


 この距離、この間合い。

 ここから逃れるのは不可能――そう、誰もがそう思っていた。


 だが。


 「ふぅ……あぶねぇ」


 アオイはゆっくりと、一歩だけ後ろへ下がっていた。


 「いやー、さすが“暗殺神”って呼ばれてるだけあるね。ほんとに全く気配を感じなかった……気配遮断ローブでも、ここまで完璧には消えないよ」


 アオイの瞳に映る世界は、まるですべてがスローモーションのようだった。


 否――アオイが、速すぎるのだ。


 《神速》の世界。


 アオイの紋章の力は《脳の活性》。


 戦闘中における《動体視力》《反射神経》《思考判断》を極限まで高める力――だが、脳の反応速度だけが速くなっても意味がない。


 実際、脳だけが高速化すれば、自分の身体がスローに感じる地獄のような時間になるだけだった。


 だが、アオイの装備には“加速魔法”が仕込まれている。

 魔力を注げば注ぐほど速く動けるが、過剰に流せば制御不能になる、諸刃の刃。


 だが――この2つが奇跡的に噛み合った。


 脳と肉体、思考と反応、視覚と筋肉。

 それらが完全に同期し、アオイはついに“神速”へと到達した。


 彼女の中では、世界そのものが鈍くなる。

 敵も、仲間も、風さえも――すべてが遅い。


 「“○ロックアップ”とでも名付けようかな……いや、流石に怒られるか?」


 冗談めかしながら周囲を見渡すアオイ。


 「まさか話の途中で斬りかかってくるなんて……流石忍者汚い」


 軽くクナイを振ると、レナノスの腕に浅い傷が走る。


 「さて、と。どうしよう……うーん、とりあえず、リーダーっぽいこの人だけ僕の家に連れてって、ゆっくり話を__」


 ――その時だった。


 ザクッ。


 「え――」


 アオイの肩に、小さなナイフが深々と突き刺さる。


 「な、なん……で……」


 神速状態を保っていた集中が一気に乱れ、時が、流れを取り戻した。


 「消えた……!? ぐ、あっ!」


 レナノスは全身に走る痺れと共に地面に崩れ落ちた。


 「っ!! これ……さっき投げてたナイフ!?」


 ウジーザスの前まで、神速を使って来ていたアオイは、肩に突き刺さったナイフを抜きながら、傷口を手で押さえた。


 突然の事態に、マークとたまこは戸惑いを隠せない。だが、ウジーザスは目の前のアオイに対して冷静に口を開く。


 「さすが、《武神》の作り出した武器ですね。私に向かって仕掛けてきた時点で、何かしら仕込まれているとは思っていましたが……まさか“防御無効”とは」


 「ど、どうして……っ」


 「あなたが、そのタイミングでそこに来る……そう“視えて”いたのです」


 「大将!」


 異変を察したトミーが、即座にアオイのもとへ駆け寄る。


 「大丈夫、もう治ったよ」


 そう言って見せたアオイの肩には、すでに血の跡すら残っていない。


 「……装備だけの治癒魔法で、そこまでの回復力とは」


 「自慢の装備でね」


 軽く笑って返すアオイだったが、額にはじんわりと汗が滲んでいる。


 先程の一撃――それはただの攻撃ではない。

 “お前の力は通じない”

 ウジーザスは、それを見せつけてきたのだ。


 「他の二人よりも……まず、あなたを殺すことにします。さて、どの未来で殺して差し上げましょうか」


 「出来れば、寿命で死にたいんだけど」


 「あなたの寿命も……私が決めま──っ!」


 その瞬間、ウジーザスの目が大きく見開かれた。


 まるで、何か“想定外”の何かを見てしまったかのように――。


 「これは……マーク!」


 「何ですか、ボス。正直、俺の存在意義がないんで、もう帰ろうかと──」


 「すぐに、この近くにある“手鏡”を拾いなさい!」


 「え?ああ、これですか」


 マークは近くに落ちていた手鏡を一瞬で手に移動させる。


 「っ……!」


 その鏡を見た、たまこの表情が明らかに変わった。


 「出てきなさい。それとも……今ここでアナタたち全員を殺しましょうか?」


 ウジーザスが鏡に向かってそう言った瞬間──


 鏡が眩い光を放ち始める。


 「…………」


 「いや〜バレちゃってたね、アニキ」


 「ジュンパク、お口チャックしてください。あなたが喋るとややこしくなりそうです」



 「みんな!?」



 ──鏡の中から、ヒロユキたち3人が姿を現した。

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