《01:00》
深夜を回り、ヒロユキたちは六英雄について、大まかな説明をたまこから聞いていた。
「くか〜……」
……アオイだけは、完全に聞いていなかった。
「──そういうわけで〜、六英雄っていうのは、名前のついた組織ってわけなのよ〜」
「……なるほど」
「でもさ、たまこのアネキ。それって……人間のこと、考えてないよね?」
ヒロユキはお酒を飲まず、転送で取り寄せたミルクを手にしていた。
ジュンパクはというと、アオイの家にあった酒瓶を勝手に持ち出してラッパ飲み。
頬が赤い。少し酔っているようだった。
「そうよ〜。私も獣人だし、最初はそう思ったの。でも……数が違いすぎるのよ〜。たとえばだけど、人間が数万人に対して、魔族が全体で数十億……天秤にかけたら__」
「……天秤?」
たまこの言葉に、ジュンパクの眉がわずかにひそむ。
怒りを抑えきれない表情に、師範が口を開いた。
「ジュンパク。質問を投げたのはお前だ。彼女は、包み隠さずに答えた。それに腹を立てるのは、筋が違うぞ」
「………………ミーには、理解できない話だね。……アニキが決めたことに従うよ。話が終わったら声かけて」
そう言って、ジュンパクは椅子から立ち上がり、無言のままアオイの家の中へと歩いていった。
「……すまない、たまこ」
「いいのよ〜。あれが普通の反応よ〜? むしろ、ヒロユキくんはどう思うの〜?」
「………………わからない。……俺も、元はこの世界の人間じゃないから」
「ふ〜ん?」
「……だけど」
「?」
「……俺は自分の道を行く」
「ふふっ、さすが勇者ね〜」
「ホッホッホ……どこかの馬鹿弟子も、同じようなことを言っておったな。もしかして兄妹かの?」
「……兄さんはいるけど、こっちには来てないよ」
「冗談じゃよ……さて、説明も済んだところで、本題に入ろうかの」
「くか〜……むにゃむにゃ、もう食べれないよぉ……にゃぁ」
「…………とりあえず、アオイを起こさないとな」
「そうじゃのぅ」
「この子、私が話してた間ず〜っと寝てたけど〜……ほんとに大丈夫なの〜?」
ここで、今まで少し離れた場所で黙って話を聞いていたトミーが口を開く。
「あーおい、お前、うちの大将に何か文句でもあんのか?あのババアの弟子かどうか知らねーけどよ……お前んとこも仲間がひとり抜けてんじゃねーか。どの口が言ってんだ、クソガキ」
ピクッとたまこの狐耳が動き、ひきつった笑顔を浮かべて返す。アニメならムカつきマークが浮いてるだろう。
「師匠から、よ〜く聞いてるわよ〜……ロリコンさん?」
「ああ?」
「その子、今どこに行ったのかしら〜?」
その一言で、トミーの殺気が爆発する。落ちていた葉っぱを即座にクナイに変化させ、たまこに向けて容赦なく投げつけた!
「っ!」
「バカモンが」
その瞬間、師範がたまこの前に立ちふさがり、クナイを二本指で軽々と止める。
「落ち着け。六英雄を降りた儂が言うのもなんじゃが……今は、昔のように力を合わせる時じゃろうが」
「…………ごめんなさい」
「ふん……」
たまこは素直に謝り、トミーは不服そうに壁へ寄りかかって目を閉じた。
「……おい、クソガキ」
「ん〜?」
「アイツの話は、今後俺の前でするな。少なくとも、共闘してやってる間はな」
「…………」
「たまこ」
「……分かったわよ〜、はぁ……」
師範のおかげで場は収まったが、当の本人――その師範の称号を受け継いだはずのアオイはというと……
「むにゃむにゃ……にゃぁ……」
呑気に寝ていた。
そして――
「………………くぅぬ」
間違えて近くにあったアオイのコップの中身を飲んでしまったヒロユキも、静かにその場に沈み込んでいた……。
「とりあえず、話は明日にしましょうか〜……」
「そうするかの」