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第480話 慣れたかな?

《クリスタルドラゴン背中》


 「{てことで、みんなは次に魔神の居場所を探しててほしいんだ}」


 {了解したよ。私から全員に伝えておく。確かに、君の言う通り……我々の組織は、少々ユーモアに欠ける面があるからね}


 「{うん、それ本当に思う……じゃあ、お願い}」


 ルカの背に立ちながら、俺はミカさんへこれまでの経緯をゆっくり伝えていく。

 これでみんなにもちゃんと伝わるはずだ。


 ちなみに“乗ってる”というより“立ってる”が正しい。ルカがデカすぎて。


 下には海が広がり、風が気持ちいい。


 「さて、と……もう慣れましたか?」


 俺は、後ろで顔を青ざめさせているたまこさんに声をかけた。

 今、このルカの背にいるのは俺とたまこさんの二人だけ。


 トミーさんはというと――

 マークが拠点ではなく、自分の知る“秘密の場所”に必ず現れると踏んで、ひとり走り去っていった。


 そして、師匠。


 ルカの姿を見た瞬間、腰を抜かして顎まで外れ……たまこさんに治してもらった後、


 「ホッホッホ……まさか災害を仲間と呼ぶとはの……この老ぼれ、いらぬ心配じゃった。もう思い残すことはない……悔いなしに引退できるぞい」


 と言い残して、見送ってくれた。乗る気ゼロだった。


 そんな中、唯一ルカの背に乗ってくれたのが、たまこさんだったわけだが――


 「わわわわわ私、クリスタルドラゴンにのののの乗ってるぅぅぅ~~~……!」


 完全にバグっていた。


 まぁ、時間もまだあるし。しばらく放っておいてミカさんと通信してた、というわけだ。


 「慣れるわけないじゃない〜……相手はあの災害よ〜?」


 まだ顔色は悪いけど、ちゃんと返事ができる程度には落ち着いてきたみたいだ。よし。


 「ま、まぁ、そうだよね……俺も初めて見た時はビックリしたし」


 「やっぱり勇者ってすごいのね〜……六英雄でさえ霞んで見えるわ〜」


 「あ、はは……でも俺、そんな大したもんじゃないですよ。力だって全然足りてないし」


 「え〜?それだけの力を持ってて?」


 「本当ですって。装備がすごいだけで、脱いだら10キロのダンベル持つのもやっとなんですよ」


 「そういうことじゃないのよ〜、そういう“物理的な力”じゃなくてね〜」


 「……?」


 「まぁいいわ。それより地図を見る限り、ここから目的地までは何日かかりそうなの〜? 途中の休憩は?」


 「ああ、そのことなんだけど……ルカは一応、何日間でも飛び続けられるみたい」


 「ん〜?」


 「でも……背中で焚き火とか、火を燃やされるのは苦手みたい」


 「!?」


 その瞬間、たまこさんは目を見開いたかと思えば――腹を抱えて笑い出した。

 涙まで浮かべながら、くすくすどころかゲラゲラ笑っている。


 「え?な、なんかおかしいこと言った?」


 「はっはっはっは! あぁ〜、こんなに笑ったの久しぶりよ〜!」


 「???」


 「それってつまり……移動中に、クリスタルドラゴンの背中で焚き火しようとしたってことよね〜? 普通そんな発想するぅ〜?」


 「うぐ……っ」


 「まぁいいわ〜、それより何日も一緒に過ごすのが女の子同士で良かったわ〜」


 そう言ったたまこさんは、ふわりとモフッとした尻尾を出した。


 ――って、え!?どこに隠してたの!? 今、完全に一瞬で出てきたよね!?


 「え、えと……な、何が?」


 「おトイレとか着替えとか、気兼ねしなくて済むし〜。それに何より、尻尾の手入れができるのが最高なの〜」


 あっ、そういえば聞いたことある……獣人の尻尾って性感帯だから、基本人前では出さないって……って、えぇぇえ!?!?


 「ちょ、ちょっと!それは――!」


 「な〜に〜? 女の子同士なんだから気にしないでしょ〜?」


 だからそれが一番困るんだって!!

 俺、元の世界のツッタカターで獣人イラストとか死ぬほど見てきたけど! 尻尾には興奮しないけど!

 一応、男だからね!?


 「女の子同士でも……色々と危ない気が……!」


 「え、もしかしてあなた……そっちの人〜?」


 「違いますぅ!!」


 「じゃあ問題ないわね〜。それよりも〜」


 「は、はい?」


 いや、それよりもって何!? 話の流れどこいった!?


 「こうやって尻尾も出したし、そろそろ腹を割って話さない〜? お互いのこと」


 なにその“裸の付き合い”獣人バージョンみたいなルール……!?

 もう……知らないぞ……! 俺が尻尾に反応しない人間で本当に良かったとしか言えない。


 「ふぅ……そうですね。この際、たまこさんには色々聞いてほしいです。道のりもまだまだ長いですし」


 「私も〜、話したいことたくさんあるわ〜」




 ――こうして、俺たちはそれぞれの過去を語り合いながら、目的地へと少しずつ近づいていった。

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