《クリスタルドラゴン背中》
「{てことで、みんなは次に魔神の居場所を探しててほしいんだ}」
{了解したよ。私から全員に伝えておく。確かに、君の言う通り……我々の組織は、少々ユーモアに欠ける面があるからね}
「{うん、それ本当に思う……じゃあ、お願い}」
ルカの背に立ちながら、俺はミカさんへこれまでの経緯をゆっくり伝えていく。
これでみんなにもちゃんと伝わるはずだ。
ちなみに“乗ってる”というより“立ってる”が正しい。ルカがデカすぎて。
下には海が広がり、風が気持ちいい。
「さて、と……もう慣れましたか?」
俺は、後ろで顔を青ざめさせているたまこさんに声をかけた。
今、このルカの背にいるのは俺とたまこさんの二人だけ。
トミーさんはというと――
マークが拠点ではなく、自分の知る“秘密の場所”に必ず現れると踏んで、ひとり走り去っていった。
そして、師匠。
ルカの姿を見た瞬間、腰を抜かして顎まで外れ……たまこさんに治してもらった後、
「ホッホッホ……まさか災害を仲間と呼ぶとはの……この老ぼれ、いらぬ心配じゃった。もう思い残すことはない……悔いなしに引退できるぞい」
と言い残して、見送ってくれた。乗る気ゼロだった。
そんな中、唯一ルカの背に乗ってくれたのが、たまこさんだったわけだが――
「わわわわわ私、クリスタルドラゴンにのののの乗ってるぅぅぅ~~~……!」
完全にバグっていた。
まぁ、時間もまだあるし。しばらく放っておいてミカさんと通信してた、というわけだ。
「慣れるわけないじゃない〜……相手はあの災害よ〜?」
まだ顔色は悪いけど、ちゃんと返事ができる程度には落ち着いてきたみたいだ。よし。
「ま、まぁ、そうだよね……俺も初めて見た時はビックリしたし」
「やっぱり勇者ってすごいのね〜……六英雄でさえ霞んで見えるわ〜」
「あ、はは……でも俺、そんな大したもんじゃないですよ。力だって全然足りてないし」
「え〜?それだけの力を持ってて?」
「本当ですって。装備がすごいだけで、脱いだら10キロのダンベル持つのもやっとなんですよ」
「そういうことじゃないのよ〜、そういう“物理的な力”じゃなくてね〜」
「……?」
「まぁいいわ。それより地図を見る限り、ここから目的地までは何日かかりそうなの〜? 途中の休憩は?」
「ああ、そのことなんだけど……ルカは一応、何日間でも飛び続けられるみたい」
「ん〜?」
「でも……背中で焚き火とか、火を燃やされるのは苦手みたい」
「!?」
その瞬間、たまこさんは目を見開いたかと思えば――腹を抱えて笑い出した。
涙まで浮かべながら、くすくすどころかゲラゲラ笑っている。
「え?な、なんかおかしいこと言った?」
「はっはっはっは! あぁ〜、こんなに笑ったの久しぶりよ〜!」
「???」
「それってつまり……移動中に、クリスタルドラゴンの背中で焚き火しようとしたってことよね〜? 普通そんな発想するぅ〜?」
「うぐ……っ」
「まぁいいわ〜、それより何日も一緒に過ごすのが女の子同士で良かったわ〜」
そう言ったたまこさんは、ふわりとモフッとした尻尾を出した。
――って、え!?どこに隠してたの!? 今、完全に一瞬で出てきたよね!?
「え、えと……な、何が?」
「おトイレとか着替えとか、気兼ねしなくて済むし〜。それに何より、尻尾の手入れができるのが最高なの〜」
あっ、そういえば聞いたことある……獣人の尻尾って性感帯だから、基本人前では出さないって……って、えぇぇえ!?!?
「ちょ、ちょっと!それは――!」
「な〜に〜? 女の子同士なんだから気にしないでしょ〜?」
だからそれが一番困るんだって!!
俺、元の世界のツッタカターで獣人イラストとか死ぬほど見てきたけど! 尻尾には興奮しないけど!
一応、男だからね!?
「女の子同士でも……色々と危ない気が……!」
「え、もしかしてあなた……そっちの人〜?」
「違いますぅ!!」
「じゃあ問題ないわね〜。それよりも〜」
「は、はい?」
いや、それよりもって何!? 話の流れどこいった!?
「こうやって尻尾も出したし、そろそろ腹を割って話さない〜? お互いのこと」
なにその“裸の付き合い”獣人バージョンみたいなルール……!?
もう……知らないぞ……! 俺が尻尾に反応しない人間で本当に良かったとしか言えない。
「ふぅ……そうですね。この際、たまこさんには色々聞いてほしいです。道のりもまだまだ長いですし」
「私も〜、話したいことたくさんあるわ〜」
――こうして、俺たちはそれぞれの過去を語り合いながら、目的地へと少しずつ近づいていった。