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第481話 神の使徒と女神のお食事会

 《グリード城 客間》


 『それじゃあ、いただきます♪』


 「はい、いただきます」


 「「「……」」」


 豪奢なテーブルには、高級料理の数々がずらりと並んでいた。

 そのどれもが、プラチナ冒険者の年収クラスという、文字通り“桁違い”の料理。


 『これ、美味しいわね♪ さすがはグリード城に仕える料理人さんだけあるわ〜』


 「ほんとだね〜」


 バクバクと食事を進めていくのは、グリード女王『サクラ』と、隣に座る【ルコサ】


 そして――


 「何のん気に仲良く食ってんだぁぁあ!! 殺すぞぉおおおお!!!」


 「「……」」


 向かい側で叫び声を上げたクロエに、オリバルとキールが無言でうんうんと頷いた。


 『ルコサくん、そこのちっちゃい女の子が騒いでるけど、大丈夫?』


 「あぁ、平気平気。いつものことだから」


 「いつものことじゃねぇだろ! 何しれっと馴れ合ってんだよ!」


 「え? でも俺たちも人間だし、ちゃんと食べないと死んじゃうし……」


 「そんなのいつも通り転送して持ってきた食料で済ませりゃいいだろ!相手は史上最悪正真正銘絶対悪『女神』なんだぞ!?」


 「まぁまぁ(笑)」


 その一言で――クロエのこめかみから、ピキリと音が鳴った気がした。


 「帰る!」


 『待って、クロエちゃん』


 「誰が“ちゃん”付けだクソ野郎」


 『安心して。私はあなたたち【神の使徒】をどうこうしようとは思っていないわ』


 「“お前が”どうこうするつもりがない、じゃねぇだろ。“俺たちが”お前をどうこうする気がないんだよ。逆だ、ボケ」


 『キャハハ♪ 全員が力合わせなきゃ魔王一匹倒せない程度の連中が、よく吠えるわね? ほんっと面白〜い♪』


 「……っ!」


 クロエの瞳孔が一気に開き、空気が軋む。


 その手には、すでに武器が握られていた。


 「クロエ……落ち着けって」


 「邪魔すんな、オリバル。こいつはここで殺す」


 『それが出来ないから困ってるんでしょ〜?』


 「あぁ!?殺すぞ!」


 その言葉に、ルコサが口の中の食べ物をゆっくり飲み込んでから口を開いた。


 「まぁまぁ、お互い無駄なことはやめようよ。俺たちが束になってかかったって女神には勝てない」


 「……」


 「逆に、女神の方も俺たちを今ここで殺したって意味ない。神はまた新たに使徒を選んで、どこかで“役割”を果たすだけ……」


 『そうなのよね〜。だから私は、目の届くところに置いておきたいの』


 「ほんとは、残り2人もここに置いときたかったんでしょ?」


 『当たり前じゃない♡一回エッチしたら連れてきてくれる〜?』


 「ははは、面白い冗談だよ……ま、いいじゃん?あの2人は“イレギュラー”。元々は俺たち4人が予定だったんだから」


 『そうだったわね〜。……それにしても、その4人の中に、まさか“あなた”がいるとはねぇ……キール』


 「…………」


 『食べないの? せっかくのご馳走なのに? それとも、自分の“城”で客人として扱われるのが嫌? 私はいつでも歓迎してるのよ? 代表騎士としての席も、まだ空いてるわよ?』


 その挑発に、キールは静かにナイフとフォークを取り、目の前のステーキを切り始めた。


 「……私は神の使徒として生きると決めた。今さら戻るつもりなどない」


 『あら残念。タソガレちゃん、泣いてるかもよ?』


 「……彼女とは話した。すべてが終わったら、返事をする」


 『ふ〜ん? ちょっと見直したわ。ヘタレのままかと思ってたけど』


 「もう、昔の俺じゃない。今は……お前の敵だ」


 そう言って、一口ステーキを頬張る。


 「……美味いな」


 『でしょ〜♪』


 「はぁ……で、ルコさんよ」


 イスにふてぶてしく腰を下ろし、クロエは机に足を乗せて組む。


 「その口ぶりだと――当然、意味があってここに全員集めたんだろうな?」


 「うん、まあね。それはすぐにわかるよ」


 「また勿体ぶりかよ……」


 「でも、クロだって神の仕事してるなら分かるだろ?」


 「……仕事内容を言葉に出すと『女神』に察知される可能性がある。だから“確定する”までは喋るな、だろ?」


 「その通り。でも……今回はダメだったみたい」


 そのタイミングで、女神の通信が入る。


 『{ええ、いいわ。通してちょうだい。ここに呼んで}』


 ルコサが淡々と続けた。


 「女神が干渉できない存在、それが【勇者】……本来、彼らを導くのが俺たち“使徒”の役目だった」


 『でも今回は――私の勝ちね』


 にやりと笑いながら女神が告げた、その瞬間。


 ――客間の扉が音を立てて開く。


 そこに現れたのは、一人の男だった。


 『おかえりなさい、勇者リュウト』










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