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第483話 ピスケス魔王戦の時の出来事

 《リュウトパーティー ピスケス魔王戦》


 「こ、これが……勇者の、力……か……」


 海底深く、巨大都市アトランティスカ

 その誇り高き都は、いまや勇者たちと魔王との激闘の果て――静かに、崩壊の音を奏でていた。


 ピスケスの称号を持つ魔王ポニヤは、腹の巨大な穴から出る血は周りの海水を赤く染めている。


 「{……みんな、魔王は倒した。酸素の残量も限界が近い……すぐに浮上するぞ}」


 リュウトは踵を返し、戦いの終わった神殿を後にしようとする――その時。


 「お……待ちくだ……さい……勇者様……」


 「……?」


 ふと背後から聞こえた“様”の一言に、リュウトの足が止まる。


 「……今さら媚びても無駄だ。お前みたいな巨体を治せる魔皮紙なんてない」


 それでも――ポニヤは、語りかける。


 「我ら……魔族……敗れた者は……滅びゆく……運命……それは……受け入れます……」


 「じゃあ、なんだ?」


 「……ですが……最後の……願いを……どうか……」


 リュウトは舌打ちしたくなる衝動を押し殺す。


 「……言ってみろ」


 「……神殿の奥……私のナナが……閉じ込められて……います……彼女だけは……せめて……この海の外を……見せて……あげて……」


 最後の言葉を言い終えると同時に、ポニヤの身体は動かなくなった。


 その目は――開かれたまま、もう何も映していない。


 「……バカが……」


 リュウトは拳を握りしめながら呟いた。


 「そんなことをすれば、俺たちをここまで運んでくれた海賊の人達にも示しがつかなくなる……」


 ――そう言い聞かせながらも、足はその場から動かなかった。


 「……くそ……」


 迷いの末、彼は再び通信を開いた。


 「{聞いてくれ。もし俺が10分以内に船に戻らなかったら……構わず出航してくれ}」


 リュウトは返事を待たず、崩れ落ちる神殿の奥へと駆けていく――




 _______ナナが待つ、その場所へ。

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