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第30話 悲しきバケモノ

 無表情で目を大きく見開き、こちらを凝視するシルヴィを見て、俺は戦慄した。


 うわっ……そうだ、シルヴィは仲間外れにされるのが大嫌いなんだった。

 彼女から見たら今のは、リリアと俺がコソコソと仲良く内緒話をしているように見えたのだろう。

 ヤバいよヤバいよ……どうフォローしたらいいんだこれ。


 そんな風にあたふたしていると、リリアは素早くシルヴィに近寄って、何やら耳元でコソコソと話し始めた。俺は耳が異常に良いので内容も聞こえてくる。

 が、なんてことはない、今さっき俺に言った内容をシルヴィにそのまま伝えて、「……ということを、ケイさんに言っただけです。特別なことは何も話してないですよ」と耳打ちしてるだけだ。


 シルヴィはそれで納得したのか、「別に……そんなこと、気にしてないし」と言いながら、耳を押さえて少し恥ずかしそうな顔でそっぽを向いた。若干顔が赤い。

 わかる……わかるぞシルヴィ。リリアの耳打ちっていうか、囁き、ヤバいよな。なんかちょっとイケないことしてるみたいな感覚になる。


「では、ギルドに向かいましょうか」


 リリアが両手を合わせ、改めてこちらに向き直る。

 前世的な感覚だと、こんなに馬車がガンガン走っている大通りの近くに見ず知らずとはいえ、幼女を置いていくなんて絶対にありえないんだが……この世界的には問題ないんだろうか?

 まあ確かにリリアの言う通り、あれだけちゃんと受け答えがしっかりできる子だったらさすがに、またここから大通りを渡ることはしないだろうけど。


 そう思いながら何気なく幼女に視線を向ける。

 すると何を思ったか、幼女は再び大通りの前でタイミングを計るように左右を見渡していた。


 いやいやいや……あれだけ俺たちが「轢かれそうだった」って言ったのに、また渡ろうとする……?

 どんだけ俺たちのことを信じてないんだよ。っていうかそれ以前に危機察知能力がゼロだろ。俺につられて同じく幼女を見たリリアとシルヴィもギョッとしてる。


「ちょっとちょっと! あたしたち、さっきさんざん言ったよね? 轢かれそうだったって。なんでまた渡ろうとしてるの?」


 一番近くにいたシルヴィが慌てて幼女の肩を掴み止める。

 それを幼女はキョトンとした顔で答えた。


「向こう側に行きたいからだけど」


「いや、だから、轢かれるって」


「轢かれないけど」


「いやっ、だからっ……!」


 あ、シルヴィがキレそう。

 っていうか既にキレてるかもしれない。


「待った待った、じゃあこうしよう」


 俺は二人の間に駆け寄ると、幼女を持ち上げて右脇に抱えた。

 直後、暴れる幼女を無視しながら、大通りを行きかう馬車の間を縫って走る。


「ぎゃあぁあ!? 何すんのぉ!?」


「……っと」


 大通りの向こう側に着いた時点でブレーキを掛け、立ち止まる。

 幼女であれば危なっかしくて見てられないが、俺であれば一瞬で通れる大通りだ。というか別に俺じゃなくても、大人だったら普通に渡れるぐらいの交通量ではあるが……近くに親がいないって話だったからな。前世だったら幼女を抱きかかえて走るなんて事案だからやりたくはなかったが、あのまま放っておけるわけもないし。


「これで問題なし、だな」


「なーにが問題なしよ!」


 地面におろされた幼女は見るからに怒った様子で、俺に突っかかってきた。


「ん? どうしたの?」


「レディーに断りもなく触れて、どういうつもりって言ってるの!」


「あー……」


 普通に提案しても絶対に嫌がるだろうと思ったから、強引に抱えて連れてきたけど……確かに子供とはいえ、勝手に触るのは良くないことだ。


「ごめん」


「ごめんじゃすまないわよ!」


 幼女は腰に両手を当てながら、大声で言った。


「慰謝料よこしなさい!」


「……………………」


 ……え、マジで?

 衝撃的な言葉に思考停止していると、先ほどと同様、リリアとシルヴィが俺たちを追って大通りを渡ってきた。


「もう、ケイさん! 急に行かないでください……どうしたんですか?」


「いや……」


「慰謝料、よこしなさい!」


 再びとんでもない要求をしてきた幼女を見て、リリアとシルヴィは首を傾げながら俺に聞いてきた。


「あの……どういうことです?」


「ケイ、何かやったの?」


「それが……俺が勝手に抱きかかえたのが良くなかったみたいで、レディーに断りなく触ったから慰謝料を、ってことらしい」


「え……?」


 ポカンとするリリアの隣で、一拍遅れてシルヴィが怒りをあらわにする。


「はぁぁ? 何それ、ありえないでしょ! あんたが馬車に轢かれそうなのに無理やり渡ろうとするから、ケイは運んであげたんでしょ!?」


「ちょ……シルヴィ、相手は子供だから……」


「ケイは黙ってて!」


 俺の制止も聞かず、シルヴィは幼女に近寄って彼女の襟首を掴んだ。


「しかも今さっき馬車に轢かれそうだったのを助けられておいて、慰謝料!? 性根腐ってるんじゃないの!? 言っておくけど、子供だからってケイが許してもあたしは……むぐぅ!?」


 背後からシルヴィの口を塞ぎ、幼女から引きはがす。


「落ち着けって。見られてるから」


「むぐ……」


 シルヴィが口を塞がれたまま周囲を見渡す。どうやら自分が周りの注目を集めていることに気が付いたようだ。同時に、このままだと騒ぎになってしまうと理解したのだろう。シルヴィは抵抗をやめて大人しくなった。

 それを見た幼女が乱れた服の襟を正しながら、大きなため息をつく。


「はぁ……いきなり人に掴みかかるなんて、とんだ野蛮人ね! 親の顔が見てみたいわ!」


「このっ……むぐぅ!?」


 完全に熱くなってしまっているシルヴィの口を再び背後から右手で塞ぎ、左腕を彼女の身体に回して、幼女に向かおうとするのを止める。

 それからシルヴィを代弁して幼女に返答した。


「ごめんな、野蛮人で」


「ふん……もういいわ。野蛮人にこれ以上関わって、逆恨みされたら嫌だもの。このへんで許してあげる」


 幼女はそう言ってこちらに背を向けると、大通りに面した道のひとつを歩き始めた。どうやら慰謝料うんぬんは本気じゃなかったらしい。

 うーん……しかし、気になるな。


「……なぁ、リリア」


「はい?」


「あの子の態度……どう思う?」


「ええと……あそこまで極端だと、逆に心配しちゃいますね。私たちはともかく、もし短気で暴力的な大人が相手だったら、大変なことになっていたと思います」


 最初は幼女のあまりにも生意気な態度に怒っていた様子のリリアだったが、今となっては困惑して逆に心配しているようだ。まあ確かにシルヴィもあと一歩で手が出そうなほどブチギレてたし、その点に関しては確かに同意できるんだが……俺は少し、リリアとは違った印象を幼女に抱いている。


「あのさ……ちょっと、あの子の後を追ってもいいかな?」


「え……? なぜです? まさか、復讐を……?」


「違うよ。単に、あんな小さい子供がちゃんと一人で家に帰れるのか心配でさ。もしこのまま帰らせて事件にでも巻き込まれたら、あのとき見てれば……って後悔しそうだし」


 いくら生意気でも、クソガキでも、子供は子供だ。

 親が近くにいないなら、周りの大人が気にかけてあげるべきだろう。

 ……まあ、気になっている理由はそれだけじゃないけど。


「……ケイさんって、本当にお人よしですよね」


「そうかな? 普通だと思うけど」


 慈善活動をしてるわけでも、自分を顧みず人に尽くしてるわけでもないし。

 今だってあの幼女をある意味ではから、お人よしではないと思う。


「ふふ……そうですね。それがケイさんの普通です。もちろん、私はケイさんについていきますよ。シルヴィも……あっ」


 リリアがシルヴィを見て、何かに気が付いたように目を見開いた。

 なんだろう。何かおかしなことでも……あっ。


「んっ……ふぅ……」


 シルヴィは顔を上気させ、ぐったりと項垂れながら怪しい吐息を漏らしていた。

 しばらく口を塞いで後ろから抱きしめていただけなのに、なんかとんでもないことになってる。魅了の症状ヤバいなこれ……触れてただけでこれとか、抑制剤がもう全然効いてない。



 〇



 フラフラになったシルヴィをリリアに支えてもらいながら、俺たちは先を行く幼女の後を追った。

 自分の家かどこかに帰っているのだろうか。その足取りに迷いはない。

 彼女になんのもなく、無事に一人で家に帰れるのであれば何も問題はないのだが……と、そんなことを考えながら尾行を続けていたその時。


「あの……どちら様でしょうか?」


「っ!?」


 突然背後から声を掛けられ、驚いて後ろを振り向く。

 するとそこには、黒髪の美女が立っていた。


 歳は20代前半だろうか。腰まで届く長い黒髪に、白のワンピース。

 柔らかな曲線を描く頬と薄紅色の唇、真っ直ぐに伸びた鼻筋。

 一見して儚げだが、どこか強い意志を感じさせる大きな瞳が印象的な美女だ。

 彼女は一番後ろにいたシルヴィを主に見ているため俺と視線は合っていないが、間違いがあっては困るので慌てて目深にフードを被り直す。


「あの……?」


 美女が再び声を掛けてくる。

 俺が顔を伏せ、シルヴィがさっきまでの余韻でボーっとしているからか、リリアが前に出て代わりに答えてくれた。


「どちら様というのは、どういう意味でしょうか?」


「皆さん、あの子をつけてましたよね? わたしは、あの子の姉なので……」


「あっ……そ、それはですね……」


 リリアがこれまでの経緯を簡単に説明してくれる。

 それを聞いた美女は口元に手を当てて、驚いたように声を上げた。


「まあ……! そんなことが……それでは、皆さんはルナの命の恩人ですね。しかも、ルナがちゃんと帰れるよう見守ってくださっていたなんて……なんてお礼を申し上げたらいいか」


「いえ……私とこっちの子は特に何もしてません。あの子を助けたのも、見守ると決めたのも、彼なので」


「そうなんですか? それでは、あなたに特別の感謝を……」


 美女は俺に向き直ると、右手を自分の胸に当てて目をつぶり、姿勢をやや前に傾けた。これはこの世界における最大級の敬意や感謝を示す動作だ。


「いや、そんな大したことはしてないので……っていうかすみません、俺は異国の生まれで、返礼の作法とか覚えてなくて……」


 相手にこのお礼をされたら、確か返答とか仕草とかの作法が決まっていたと思うのだが、旅の途中に少し聞いただけで内容はまったく覚えていない。かなり改まったお礼で、日常では基本使わないって話だったから気にしてなかったけど、こんなことなら覚えておけば良かった。


「うふふ……あなたは礼儀正しい方なのですね。気になさらないで大丈夫ですよ。むしろ気を遣わせてしまってごめんなさい」


「あ、いや、俺は、別に……」


 ヤバい。しどろもどろになってしまった。

 リリアはそんな俺と女性を交互に見て、訝しげな表情をしていた。


「申し遅れました。わたしはアミリと申します」


「あ……俺はケイといいます。彼女たちは左から順番にリリアとシルヴィといいまして……」


 リリアとシルヴィが順番に挨拶すると、アミリさんは両手を合わせ、改めてこちらに向き直った。


「皆さん、よろしければ我が家にお越しください。改めてお礼をさせていただきたいと思います」


「そんな、本当に大したことはしてないので……」


 そうそう見ないレベルの美女からお誘いを受けて一瞬迷うも、いやいやそんな暇はないぞと思い直し遠慮する。幼女の件で少し脱線はしたが、俺はまず何よりも魔眼をどうにかしないといけないのだ。

 当然リリアとシルヴィも同じ考えだろう……と、思いきや。


「……ケイさん、少しだけお邪魔しては?」


 リリアが横から神妙な表情で提案してきた。

 俺はそれを聞いて驚くと同時に、彼女の意図を考える。


 そういえば、アミリさんはさっきの幼女の姉だと言っていた。

 ということはリリアも、その関連で何か怪しいと思ったことがあったのだろうか?

 ……うーん、わからないな。リリアは幼女に関してそこまで違和感を覚えてなかったみたいだし。

 でもこのパーティー内での裏ボス(財政担当)が言うことだ。絶対に何か考えがあるはずだし、表ボス(脳筋)の俺は大人しく従っておくべきだろう。


「そう……だな。それじゃあアミリさん、少しだけお邪魔してもいいですか?」


「ええ、もちろんです。では、こちらへ」


 アミリさんについていき、いくつかの角を曲がって着いたそこは豪邸とまではいかないまでも、周囲の住居と比べかなり立派な洋館だった。

 重厚な扉を開けると、そこそこ広いエントランスが迎えてくれる。

 周囲には高価そうな絵画が掛けられ、床は磨かれた大理石で出来ているようだ。


「あの……アミリさんって、貴族様だったりします?」


「まさか」


 アミリさんはクスクスと笑いながら、周囲の絵画などに視線を向ける。


「わたしは庶民ですよ。父も帝国に仕えてはおりますが、貴族ではありません。ただ帝国では庶民でも能力次第で名を上げることができますから、貴族の方々とのお付き合いでこうした絵画なども頂くことがあるみたいです」


「なるほど……」


 庶民であるにもかかわらず貴族との付き合いで高そうな絵画を貰うってことは、アミリさんの父はかなり偉い人なのかもしれない。

 そんな感想を抱きつつアミリさんについていくと、彼女はダイニングらしき部屋に入り、俺たちを長テーブルと椅子の前に案内した。


「さぁ、どうぞ皆さんお座りください。今、紅茶を淹れて……」


「結構です」


 リリアが前に出て、アミリさんの言葉を遮るように言う。

 そしてどうした? と聞く間もなくリリアは耳を疑う内容を口にした。


「こんなところで何をやってるんですか? お母さん」


「………………ん?」


 今、リリア……お母さんって言った?


「ええと……わたしにはあなたのように賢くて、かわいらしい娘はいないのですが……わたし、そんなにお母様に似ていらっしゃる?」


「いえ、外見は全然似ていません。ただ……最初は私の母に笑い方がそっくりで、違和感を覚えました。次に名前が『アミリ』……私の母である『ミリア』の名を『ア』から読んだものであることに疑念を抱きました。最後にここまで歩いてくる最中の後ろ姿と仕草を注視して、確信を得ました」


 リリアは一歩前に出て、懐から短い木の杖を取り出しアミリさんに向けた。


「生まれたときから何十年も一緒に暮らしていた娘の観察眼を舐めないでください。さぁ、無駄な魔力は消費したくありません。今すぐ変化の魔法を解いてください」


「仰ってる意味が、よくわからないのですが……」


「自分が教えたことがないからと、油断しましたね? 変化の魔法はとても高度かつ繊細で、水魔法を当てるだけで解くことができる……それぐらい、私だって独学で知ってるんですよ」


「まあ、すごい……リリアさんは博識なんですね」


 アミリさんはニコニコと笑いながら、嬉しそうに両手を合わせた。

 リリアはそんなアミリさんを見て、イラついたように口元を歪める。


「っ……いつまで下手な演技をしてるんですか? 最初に否定した手前、引っ込みがつかなくなっているのかもしれませんが……つまらない意地を張っていると、後悔しますよ」


「そう仰られても、誤解なので……」


「ああもう……! これ以上は恥ずかしくて見ていられません! すっぴん晒して反省してください! 水よ——!」


 リリアが持つ杖の先から、噴水のように水が飛んでアミリさんの顔面に勢いよく当たる。水の勢いは徐々に弱まって、その過程で当たる角度が変わり、アミリさんの胸、腹、下半身と、全身を濡らしていく。


「まったく……意地を張り続けるから、そうなるんですよ…………え?」


 魔法の水が止まると、そこにはずぶ濡れになって白いワンピースが身体に貼り付いたアミリさんがいた。割と薄い生地だったようで、美しい肢体のラインがハッキリと見えるようになっており、上下ともに白い下着の刺繍まで浮かび上がってしまっている。

 それを見たリリアはポカンと口を開けて、固まっていた。


「あらあら……ビショビショになってしまいました」


 にこやかに笑うアミリさん。

 そんな彼女を見てリリアが再び動き出す。


「う、うそ……変化の魔法じゃない? いえ、違います、絶対に何かタネがあるはず……」


 リリアはアミリさんに近づくと、ペタペタと両手で彼女の顔や身体を触り始めた。


「なんで、どうして……魔法が掛かってない? そんなはずは……でも、これは……」


「うふふ……くすぐったいですよ、リリアさん」


「くんくん……匂いも、お母さんの匂い……じゃなくて、別人? そ、そんな……」


 アミリさんの背後に回って首筋の匂いを嗅ぎまわるリリアは、傍から見るとアレな人というか……直球で言ってしまうと、ド変態に見えた。


「ふふ……満足しましたか? ほら、世界には自分と似ている人間が三人はいると言いますから」


「……私を、甘く見ないでください!」


 リリアはそう言うと、後ろからアミリさんのスカートをガバッと捲って、そのままワンピースの中に身体ごと潜り込んだ。


「り、リリアさん!?」


「お母さんは……お母さんはもっと胸が大きい。だからこんなに胸が小さく見えるということは、今はサラシを巻いているか、私の五感を狂わせる魔法……もし五感を狂わせるとしても、大きいものを小さく感じさせるのは至難の業……目を閉じて直に触れば……!」


 リリアがブツブツと呟きながらアミリさんの胸元に手をやった瞬間。

 その背後から駆け寄ってきた小さな影が、スリッパのようなものでリリアの頭を勢いよく叩いた。


「いたぁい!?」


「この変態バカ!」


 リリアの頭を叩いたのは、アミリさんと会うまで後をつけていた幼女だった。

 アミリさんの妹らしいので、道を先行していた彼女がこの家にいるのは当然だろうが……しかし、絶妙なタイミングでやってきたな。


「人の姉に何してんのよ!」


「あ……あぁ……」


 リリアは幼女の言葉に反応すらせず、自分の両手を見ながらワナワナと震えていた。


「ど、どうしたリリア?」


「手にちょうど、収まるぐらいの……お母さんより全然小さい、胸でした……」


 よほどショックだったのだろう。

 リリアは俯いたまま、両手で頭を抱えその場に膝をついた。


「うそ……うそです……そんなはず……もし、違ったとしたら、私は……」


 リリアの目に涙が浮かび、顔が羞恥に赤く染まっていく。

 そんな彼女を見て、アミリさんは口元に手を当てながらクスクスと笑った。


「あらあら……変化の魔法だと決めつけて水まで掛けてしまった手前、引っ込みがつかなくなっているのかもしれませんが……つまらない意地を張っていると、後悔しますよ?」


「っ!?」


 アミリさんの言葉を聞いて、リリアが目を見開く。

 ついさっき自分がアミリさんに言った言葉を意趣返しされたのが決定打になったのか、リリアは力なく床に転がり、仰向けになった。


「リリア……?」


「……シテ」


「え?」


「コロシテ……ワタシヲ……コロ、シテ……」


「…………」


 リリアがもう人間には戻れない系のバケモノと化してしまった。


「大丈夫ですよ、リリアさん」


 アミリさんがバケモノのそばに寄ってしゃがみ込み、その手を掴む。

 するとバケモノの目に一筋の光が差した。


「人間、誰しも間違いはあるもの。次から間違えないようにすれば良いのです」


「ァ……マ、マ……?」


「うふふ……甘えん坊ですね、リリアさんは。いいですよ。わたしのことを、ママと呼んでも」


「マ、マ……」


「なぁに? リリアちゃん」


「ママ……!」


 バケモノがアミリさんの胸に顔をうずめて抱き着く。

 アミリさんはそれを満面の笑みで受け止め、歓喜の声を上げた。


「あぁ……なんてかわいらしいのかしら、ウチの子は! 世界一かわいい! まるで5歳児の頃に戻ったみたいだわ!」


 自白してる!

 自白してるぞこの人!

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