ほどなく会社は倒産した。抵当に入っていた自宅は家財もろとも差し押さえられた。仕方なく、麻衣は勝則と伽耶と沙耶をつれて工場を訪ねた。両親がいるかもしれないと思ったからだ。
「全部持っていかれているわ」と工場の入り口で麻衣が言った。
「家は差し押さえられて、工場は空っぽか」と伽耶。
「この工場の土地と建物はなぜ差し押さえられなかったの?」と沙耶。
「借地だからよ。おじいさんとおばあさん個人の資産なの。ちゃんと毎月賃料を払ってるのよ」と麻衣。
「今夜はここで夜露をしのぐしかないわね」と伽耶。
「携帯端末どころかポケットの小銭も残ってない」と勝則。
「無一文ってこういうことなのね」と沙耶。
「愚痴っても始まらないわ。とにかく建物の中に入りましょう」と麻衣。
事務所だった部屋に達也と真知子が段ボール箱を椅子にして向かい合わせで座って話をしている。真知子は泣きはらした顔をしていた。
「お前たち、いいところに来た」と達也。「お父さんとお母さんはしばらく出かけるから、ここで待っていなさい。」
「どこに行くの?」と麻衣。
「知り合いのところだ」と達也。「援助を頼みに行く。」
「援助って?」と麻衣。
「お金を借りるんだ」と達也。「何日か前に頼んである。」
「いつ帰ってくるの?」と麻衣。
「いろいろ揃えなきゃならないから、明日になるかもしれん」と達也。「今夜はここで休みなさい。工場の戸締りをして、この会議室で鍵をかけて寝るんだ。用心しなさい。」
「分かったわ」と麻衣。「お父さんとお母さんも気を付けて。」