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第35話 倒産

 ほどなく会社は倒産した。抵当に入っていた自宅は家財もろとも差し押さえられた。仕方なく、麻衣は勝則と伽耶と沙耶をつれて工場を訪ねた。両親がいるかもしれないと思ったからだ。


「全部持っていかれているわ」と工場の入り口で麻衣が言った。


「家は差し押さえられて、工場は空っぽか」と伽耶。


「この工場の土地と建物はなぜ差し押さえられなかったの?」と沙耶。


「借地だからよ。おじいさんとおばあさん個人の資産なの。ちゃんと毎月賃料を払ってるのよ」と麻衣。


「今夜はここで夜露をしのぐしかないわね」と伽耶。


「携帯端末どころかポケットの小銭も残ってない」と勝則。


「無一文ってこういうことなのね」と沙耶。


「愚痴っても始まらないわ。とにかく建物の中に入りましょう」と麻衣。



 事務所だった部屋に達也と真知子が段ボール箱を椅子にして向かい合わせで座って話をしている。真知子は泣きはらした顔をしていた。


「お前たち、いいところに来た」と達也。「お父さんとお母さんはしばらく出かけるから、ここで待っていなさい。」


「どこに行くの?」と麻衣。


「知り合いのところだ」と達也。「援助を頼みに行く。」


「援助って?」と麻衣。


「お金を借りるんだ」と達也。「何日か前に頼んである。」


「いつ帰ってくるの?」と麻衣。


「いろいろ揃えなきゃならないから、明日になるかもしれん」と達也。「今夜はここで休みなさい。工場の戸締りをして、この会議室で鍵をかけて寝るんだ。用心しなさい。」


「分かったわ」と麻衣。「お父さんとお母さんも気を付けて。」


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