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第36話 工場

「まず建物の様子を確認しましょう」と麻衣。四人はぞろぞろと連れ立って歩きだした。


「水道は出るのね」と伽耶。


「ガスは出ないわ」と沙耶がガス栓をひねりながら言った。


 勝則がブレーカーのふたを開けた。「電気は使える。」


「まず段ボールを集めましょう。会議室の床にひいて寝床にするのよ」と麻衣。


 四人は散らばって使えそうなものを物色した。結局段ボール以外には、材木と鉄パイプが少しと若干の工具、ネジやビスの類しか残っていなかった。


 麻衣たちは段ボールを会議室に運び込んで床に敷いた。舞は靴を脱いで段ボールのうえに座った。勝則と伽耶、沙耶もそれに倣った。


「真っ暗ね」と伽耶。


「電灯まで外して持っていかれてるから」と勝則。


「今日は水を飲んで寝るしかないわね」と麻衣。


「ここで雑魚寝か」と沙耶。


「姉弟水入らずね」と麻衣。「ちなみに今夜は私が勝則に添い寝するわ。」


「なぜ?」と沙耶。


「あなたたちより体が大きいからよ。勝則を効率的に温めてあげられるわ。こうやって抱きしめるのよ」と言って麻衣は勝則を羽交い絞めにした。


「ひどい理由ね」と伽耶。


「それなら私たちが両側から暖めるほうが合理的だわ」と沙耶。


 沙耶と伽耶は勝則を麻衣から奪って、両側から抱きついた。


「四人で寝ればいいじゃないか」と勝則。「段ボールだってそんなに数がないんだから。」


「仕方がないわね」と麻衣。「あなたに選ばせてあげるわ。誰と寝たい?」


「選べないよ、そんなの」と勝則。


「なぜ?」と麻衣。「私たちのこと、嫌いなの?」


「好きだよ」と勝則。


「じゃあ選びなさいよ」と麻衣。「さあ、恨みっこなしよ。」


「分かったよ」と勝則。「三人と一緒に寝る。」


「そんなの無理よ。左右に一人ずつで、せいぜい二人よ」と麻衣。「三人目はあんたの上に乗ることになるわ。」


「兄さんをいじめちゃ可哀そうよ」と沙耶。


「沙耶が譲ってくれるの?」と麻衣。


「違うわ。もっと合理的な方法で決めるのよ」と沙耶。


「どういうこと?」と麻衣。


「これから順番に芸をして、兄さんを一番満足させた人が一緒に寝るのよ」と沙耶。


「それはいい考えね」と麻衣。


「満足って、抽象的だわ」と伽耶。「ちゃんとルールを決めましょう。」


「満足っていったらあれのことに決まってるでしょ」と麻衣。「分からないの?」


「そうじゃなくて、兄さんが自己申告するわけないってことよ」と伽耶。「誰のとき一番興奮したかなんて。」


「もちろん勝則には脱いでもらうわ」と麻衣。「ちゃんと判定できるように。」


「何、変なこと言ってるんだよ、姉さんたちは!」と勝則。


「兄さん、心配ないわ」と伽耶。「満足してから寝るか、寝てから満足するか、大して違わないから。」


「伽耶まで何言ってるんだ!」と勝則。「ぼくは服を脱いだりしないよ。」


「脱がなくてもいいのよ」と麻衣。「あれさえ出しておけばいいわ。」


「いやだよ!」と勝則。


「兄さん、悪いようにしないから、言うことを聞いて」と沙耶。


「私たちの言うことを聞くって約束したでしょ」と伽耶。「兄さん、忘れたの?」


「こんなの無茶苦茶だよ!」と勝則。


「逆らうのね、実力行使するわ」と麻衣が前から勝則に抱きつき、沙耶と伽耶が左右から勝則の動きを抑えた。


「冗談よ、からかっただけよ」と麻衣。


「ひどいよ、姉さん」と勝則。


 伽耶と沙耶が珍しく、くすくすと笑っている。


「伽耶と沙耶も……」と勝則。


「悪かったわよ」と麻衣。「だけど仕方ないでしょ、あんたをからかう以外にすることがないんだから。」


「何が楽しいんだよ」と勝則。


「愛情表現よ」と言いながら沙耶が勝則の体に胸を押し付けた。


「乗ってこないお兄さんが悪いわ」と伽耶が勝則の耳元で言った。「遊びに決まってるのに。」


「そうなのか」と勝則。


「次はのってくるのよ」と麻衣。「そういう遊びなんだから。」


「わかったよ」と勝則。


「じゃあ寝ましょう」と麻衣が勝則を抱えて段ボールの上に寝そべった。


 伽耶と沙耶が二人の上に乗って勝則に抱きついた。しばらく勝則は姉妹にもみくちゃにされ、いつのまにか眠りについていた。


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