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第39話 修復(3)

「ところで、山の別荘はどうなったの」と沙耶。


「ああ、あの山小屋のことか」と達也。「不動産屋に言わせると、二束三文の物件だそうだ。抵当に入れられなかった。だからあそこは今でもオレの名義のままだ。」


「それなら、私たちはその山小屋に住むわ」と沙耶。「しばらく生活できる食料とお金を置いてあるから。」


「学校はどうするんだ?」と達也。


「休むわ。来月から夏休みだから、欠席は一か月だけよ」と沙耶。


「山小屋に泊まるのは、夏休みが始まってからでもいいでしょう?」と真知子。


「今日からでないとだめ!」と沙耶が勝則の肩を抱きかかえながら言った。


 勝則が麻衣を見た。


「気が付いてるんでしょ?」と麻衣。「沙耶の気持ちはガチよ。」


「兄さん、嫌なの?」と沙耶。


「うれしいよ」と勝則が笑った。


 達也と真知子が立ち上がった。


「あなた達の好きなようにしなさい」と靴を履きながら真知子が言った。


「お父さんとお母さんは出かけるからな」と達也。「おじいさんとおばあさんに伝言役を頼んであるから、お前たちもちゃんと連絡しろ。」


「わかったわ」と麻衣。


 達也と真知子は会議室から出て行った。




 しばらく間があって、麻衣と伽耶が立ち上がり、続いて沙耶と勝則が立ち上がった。四人はそろって工場を出た。しばらく歩いて、分かれ道で四人は向かい合った。


「私たちはおじいさんの家に行くから、ここでお別れよ」と麻衣は沙耶と勝則に言った。


「夏休みが始まったら、私も山小屋に遊びに行くわ」と伽耶。


 伽耶と沙耶は何も言わず、しばらく目を合わせた。


「避妊するのよ」と麻衣。


「大丈夫。ちゃんと用意してあるから」と沙耶。


「あなたらしいわ」と麻衣。


「それじゃあ」と言って沙耶は勝則の手を引っ張って右方向の道に歩き出した。


 勝則は麻衣と伽耶に手を振った。麻衣は手を振って勝則に答えた。




 麻衣と伽耶は並んで歩きはじめた。


「姉さん、これでよかったの?」と伽耶。


「まさか」と麻衣。「こうなるだろうと思って、今朝、勝則とやっておいたわ。だから、勝則は私のものよ。」


「さすが、偽りの女狐ね」と伽耶。


「あなただって怪しいわ。話し合いの間、ずっと沙耶とハンドサインを交換してたでしょ」と麻衣。


「やっぱり気付いてたか」と伽耶。


「どんな取引したの?」と麻衣。


「夏休みが始まったら交代よ」と伽耶。


「勝則が驚くんじゃない?」と麻衣。


「私だって命張ったんだから当然の権利よ」と伽耶。


「ひどいわね。勝則は純情なのに」と麻衣。


「姉さんがそれを言う?」と伽耶。


「ふふふ」と麻衣。「勝則は私が守るわ。」


「善人ぶってひどいわ」と伽耶。「互いに気が付かないふりをすれば問題ないって言いたいんでしょ。」


「それが勝則のためになるのよ」と麻衣。「そもそもあの子に、私たちから一人を選べるはずがないのだから。」


「それもそうね」と伽耶。「そしてこれなら私たちも納得できる。」


「そうよ。これで丸く収まったわ」と麻衣。


 二人は顔を見合わせて笑った。


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