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第38話 修復(2)

「水を差すようで悪いけど、もうお父さんたちと暮らすのはお断りよ」と沙耶。


「なぜだ!」と達也。


「私たちの持ち物まで抵当に入れるなんて、どういうこと?」と沙耶。


「すまなかった。もう二度と家財を抵当に入れたりしない。約束する」と達也。


「ヤミ金融からお金を借りるのもやめてほしいわ」と伽耶。「私たちまで取り立てられて、小銭まで巻き上げられたわ。」


「本当にすまなかった。許してくれ」と達也。


「大事なものがあったのに」と沙耶。「古物商に一切合切を持っていかれてしまった。」


「有無を言わさずだったわね」と麻衣。


「大事なものとは、勝則の日記か?」と達也。


「そうよ」と沙耶。


「日記のことは忘れてよ」と勝則。「恥ずかしいから。」


「忘れるわけないでしょ」と麻衣。


「もう勘弁してやれ」と達也。


「お母さんが古物商から取り戻してくるわ」と真知子。


「もういいわよ」と沙耶。「お父さんとお母さんには、今そんな余裕ないでしょ。」


「そうか。すまないな」と達也。


「でもいいわ。一番大切な部分はここに残っているから」と言って伽耶は胸のペンダントを見せた。


「文書ファイルを保存してあるのか?」と達也。


「そうよ」と沙耶もペンダントを見せた。「一生、離さないわ。」


「どんな内容なの?」と真知子。


「私たちに宛ててた手紙よ」と麻衣。


「それって、ひょっとして!」と勝則が叫んだ。


「そうよ」と麻衣。


「パスワードをかけてあったのに……」と勝則。


「どういうことだ?」と達也。


「電子版の日記にパスワードのかかった三つのファイルがあったの」と麻衣。「それが、私たちへの手紙だったのよ。」


「それぞれ、あなたたち三人に宛てた手紙なの?」と真知子。


「そうよ。お父さんとお母さんの分はないわ」と麻衣。


「パスワードを破れるはずないのに……」と勝則。


「兄さんが家出から帰ってきたとき、伽耶が兄さんを風呂に入れたでしょ」と沙耶。「その間に兄さんの荷物を調べたの。脱いだ服も含めて。」


「そんな……」と勝則。


「パスワードを書いておいたのか?」と達也。「それじゃあ、意味がないだろう。」


「お父さんは鈍感ね」と麻衣。


「それで、パスワードは見つかったの?」と真知子。


「ええ。リュックの底に日記の保管場所とパスワードを書いた紙が入っていたわ」と沙耶。「わざわざ二重底にして縫い付けてあったからすぐに分かった。取り出してパスワードを読んで、元に戻しておいたわ。」


「それで、手紙を読んだのか?」と達也。


「ええ」と麻衣。「思った通り、遺書だったわ。勝則は最初から自殺するつもりで家出したのよ。」


 しばらく間があいた。


「だが、なぜ自殺しなかったんだ?」と達也。


「いざとなったら、怖くてできなかった。それに、山でキャンプしてたら、なんだか楽しくて」と勝則。


「兄さんが優柔不断でよかった」と言って沙耶が勝則の肩をつかんで顔を押し当てた。


「まったく。息子が臆病でうれしいと思うなんてな……」と達也。



 また、しばらく間があいた。


「それで、お父さんたち、仕事はどうするの?」と麻衣。


「もちろん、お母さんと会社を再建する」と達也。


「そう。がんばってね」と麻衣。


「あなた達に頼みがあるのよ」と真知子。


「何かしら?」と麻衣。


「会社を手伝ってもらえないかしら」と真知子。


「社員になるの?」と麻衣。「お父さんにこき使われるなんて嫌よ。」


「時間があるときに手伝ってくれるだけでいいのよ」と真知子。「会社を設立しなおしても、社員を雇うお金がなくて困ってるの。」


「それで、ただ働きしろと?」と麻衣。


「ちゃんと礼はする。お前たち四人には、社員ではなくて、役員の肩書を用意する」と達也。「経営が軌道に乗ったら、きちんと報酬を支払う。」


 子供たち四人は疑いの目を父親に向けた。


「私からもお願いするわ」と真知子。


「すべて埋め合わせをする。今回の破産の件も含めてだ。約束する」と達也。


「そして、これから私たちのことに口を出さない」と麻衣。


「ああ、もちろんだ。約束する」と達也。


「お母さんも、約束するわ」と真知子。


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