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第10話「嵐の海を越えて、黒き波を」

〜海賊とダーク・アンド・ストーミー〜


 扉が勢いよく開かれた。


 潮風とラム酒の香りが店内に流れ込み、続いて陽気な笑い声が響く。


 「おいおい、こんなとこに隠れちまってたのかい、静かな酒場だな!」


 入ってきたのは、粗削りな革のコートを羽織った海賊だった。

 片目には黒い眼帯、腰には曲がった短剣がぶら下がっている。

 体に刻まれた無数の傷が、彼がどれほどの修羅場をくぐってきたかを物語っていた。


 「さて、船を降りたばかりのこの俺に、最高に”荒れ狂う”一杯をくれや」


 荒れ狂う、か。

 俺は微笑み、カウンターの棚からラム酒のボトルを取り出した。


 「なら、これがいい。“ダーク・アンド・ストーミー”——嵐の夜に飲むべき一杯だ」


 ロックグラスに氷を入れ、ダークラムをたっぷり注ぐ。

 そこへジンジャービアをゆっくりと流し込むと、黒と金のコントラストが美しく揺れる。

 最後にライムを添えて、カウンターに置いた。


 「嵐の海を越えてきたお前に、ちょうどいいだろう」


 海賊はニヤリと笑い、グラスを掴むと豪快に喉へ流し込む。


 「……っはぁ! こいつはいい!」


 ラムのコク深い甘みが舌に広がり、ジンジャービアのスパイシーな刺激がそれを引き締める。

 ライムの酸味が余韻を爽やかに残し、まるで荒れ狂う波のように味が変化していく。


 「まるで嵐の真っ只中だ……! だが、それがたまらねえ!」


 海賊は豪快に笑いながら、また一口。


 「嵐の夜にこの一杯があれば、どんな波でも乗りこなせそうだぜ!」


 俺は静かに微笑む。

 「それなら、これを飲むたびに海を思い出せるな」


 海賊は満足げに頷き、懐から銀貨を数枚取り出してカウンターに叩きつけた。


 「いい酒だった。次は”もっと危ねえ酒”を頼むぜ!」


 「待ってるよ」


 海賊は豪快に笑いながら店を後にする。

 扉が閉まると、潮の香りと嵐の余韻が、まだ店内にわずかに残っていた。


 ——今夜もまた、荒波を越えてきた者に嵐の一杯を届けた。

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