〜海賊とダーク・アンド・ストーミー〜
扉が勢いよく開かれた。
潮風とラム酒の香りが店内に流れ込み、続いて陽気な笑い声が響く。
「おいおい、こんなとこに隠れちまってたのかい、静かな酒場だな!」
入ってきたのは、粗削りな革のコートを羽織った海賊だった。
片目には黒い眼帯、腰には曲がった短剣がぶら下がっている。
体に刻まれた無数の傷が、彼がどれほどの修羅場をくぐってきたかを物語っていた。
「さて、船を降りたばかりのこの俺に、最高に”荒れ狂う”一杯をくれや」
荒れ狂う、か。
俺は微笑み、カウンターの棚からラム酒のボトルを取り出した。
「なら、これがいい。“ダーク・アンド・ストーミー”——嵐の夜に飲むべき一杯だ」
ロックグラスに氷を入れ、ダークラムをたっぷり注ぐ。
そこへジンジャービアをゆっくりと流し込むと、黒と金のコントラストが美しく揺れる。
最後にライムを添えて、カウンターに置いた。
「嵐の海を越えてきたお前に、ちょうどいいだろう」
海賊はニヤリと笑い、グラスを掴むと豪快に喉へ流し込む。
「……っはぁ! こいつはいい!」
ラムのコク深い甘みが舌に広がり、ジンジャービアのスパイシーな刺激がそれを引き締める。
ライムの酸味が余韻を爽やかに残し、まるで荒れ狂う波のように味が変化していく。
「まるで嵐の真っ只中だ……! だが、それがたまらねえ!」
海賊は豪快に笑いながら、また一口。
「嵐の夜にこの一杯があれば、どんな波でも乗りこなせそうだぜ!」
俺は静かに微笑む。
「それなら、これを飲むたびに海を思い出せるな」
海賊は満足げに頷き、懐から銀貨を数枚取り出してカウンターに叩きつけた。
「いい酒だった。次は”もっと危ねえ酒”を頼むぜ!」
「待ってるよ」
海賊は豪快に笑いながら店を後にする。
扉が閉まると、潮の香りと嵐の余韻が、まだ店内にわずかに残っていた。
——今夜もまた、荒波を越えてきた者に嵐の一杯を届けた。