〜竜騎士とドラゴン・スモーク〜
扉が開いた瞬間、店内の温度が少しだけ上がった気がした。
重厚なブーツの音が響く。
カウンターに腰を下ろしたのは、鎧を纏った竜騎士。
肩には燃え盛る炎の紋章が刻まれ、背には長槍。
その眼差しは鋭く、まるで”獲物を見据える竜”のようだった。
「——火を感じる酒をくれ」
俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。
「ドラゴン・スモーク——竜の咆哮を宿した一杯だ」
ロックグラスに大きな氷を落とし、
スモーキーなアイラ・ウイスキーをベースに、スパイスラム、チェリーリキュールを加える。
そして、仕上げに少量のタバスコを一滴。
バースプーンで軽くステアすると、琥珀色の液体が炎のように揺れた。
仕上げに、カクテルピンに刺したチェリーをそっと添える。
「どうぞ」
竜騎士はグラスを手に取り、一口。
「……っ!」
まず襲いかかるのはスモーキーな香り。
まるで竜が吐く炎のように、鼻腔を焦がすアイラ・ウイスキーの燻したような風味。
続いてラムの深いコク、チェリーの甘み。
そして、最後にタバスコの鋭い刺激が喉を灼くように駆け抜ける。
「……まるで竜の息吹だな」
竜騎士はグラスの中の琥珀色をじっと見つめる。
「俺たち竜騎士は、竜の力を借りて戦う。だが、それはただ力を借りるだけじゃない。
炎を知り、炎を受け入れ、己の血肉に変える——そうして初めて、竜と対等になれる」
俺は微笑みながら、カウンターを拭いた。
「なら、この酒もお前にふさわしいな」
竜騎士は静かに頷く。
「……いい酒だ」
最後の一口を飲み干し、ゆっくりと立ち上がる。
「また竜の背を降りたら、飲みに来る」
「待ってるよ。今度は”氷の竜”のための酒も用意しておくか?」
竜騎士は微かに笑い、扉を開ける。
外の空には、遠くで赤い影が舞っていた。
——今夜もまた、一人の”竜の戦士”に燃え上がる一杯を届けた。