目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話「黄金を求める者に、輝く夢を」

〜錬金術師とゴールデン・ドリーム〜


 扉が開き、香草と硝子の香りが店内に漂った。


 カウンターに腰を下ろしたのは、一人の錬金術師。

 深いフードを被り、複雑な紋様が刻まれたローブをまとっている。

 その手には、どこかの研究室から持ち出したであろう小瓶が揺れていた。


 「……黄金は、まだ遠いな」


 彼は小さくため息をつく。


 「賢者の石の研究に行き詰まってね。少し”現実逃避”がしたいんだ」


 俺は微笑み、棚からボトルを取り出す。


 「ゴールデン・ドリーム——錬金術師の夢を映した一杯だ」


 シェイカーにガリアーノ(バニラリキュール)、トリプルセック、オレンジジュース、生クリームを注ぐ。

 氷を加え、しっかりとシェイク。


 ——シャカシャカ、シャカシャカ。


 冷えたグラスに注ぐと、

 柔らかな黄金色の液体がゆらめき、まるで”錬成された黄金”のように光る。


 「どうぞ」


 錬金術師はグラスを持ち上げ、静かに眺める。


 「……ふふ、これはまるで”未完成の賢者の石”みたいだ」


 そして、一口。


 「……っほう」


 バニラの甘く濃厚な香り、オレンジの爽やかな酸味。

 トリプルセックの柑橘の奥行きがそれを支え、生クリームが滑らかに包み込む。


 「……“不完全なる美”というべきか。

  甘美だが、一筋縄ではいかない味だな」


 俺は微笑む。


 「黄金を作るより、“黄金を求め続ける”ことのほうが面白いんじゃないか?」


 錬金術師は目を細め、くすりと笑った。


 「……それを言われると、少しだけ悔しいな」


 最後の一口を飲み干し、グラスを置く。


 「だが、確かに”黄金の味”を知るのも悪くない」


 彼は懐から小さな金貨を取り出し、カウンターに置いた。


 「さて……もう一度、研究に戻るとしようか」


 フードを深くかぶり、扉の向こうへと消えていく。


 彼の背中には、まだ”黄金の夢”が揺れていた。


 ——今夜もまた、一人の探求者に輝く夢を届けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?