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第28話「王冠の重みと、漆黒の泡を」

〜女王とブラック・ベルベット〜


 扉が開いた——静かに、しかし圧倒的な威厳をもって。


 カウンターへと歩み寄るのは、一人の女王。

 真紅のマントに覆われた肩、

 優雅な仕草で歩む姿は、まるで舞台の上の主役のようだった。


 彼女はゆっくりと腰を下ろし、俺を見つめる。


 「……興味深いわね。王城にはない雰囲気だわ」


 「それは光栄だな」


 「ふふ、そう言うのね」


 彼女は微かに笑い、手袋を外す。


 「では、“王のための酒”をいただきましょう」


 なるほど。


 俺は棚から二本のボトルを取り出す。


 「ブラック・ベルベット——王冠の重みにふさわしい一杯だ」


 冷えたフルートグラスに黒ビールを半分注ぎ、

 その上からシャンパンを静かに満たす。


 深い漆黒のビールと、黄金のシャンパンが交わり、

 ゆっくりとグラスの中で”黒と金の絹”を織りなしていく。


 「どうぞ」


 女王は興味深げにグラスを持ち上げた。


 「……黒と金。光と影の調和。まるで、王冠のようね」


 そして、一口。


 「……っふ」


 黒ビールの深いコクとほろ苦さ、

 シャンパンの気高い泡立ちと優雅な酸味。


 「——なるほど、これは”王の味”だわ」


 彼女は微笑みながら、グラスを揺らす。


 「この黒は、王が背負う影。“民を導く”という光だけでは、王は成り立たない。

  影を知り、影を受け入れてこそ、真の王冠を戴ける」


 俺は静かに頷く。


 「シャンパンだけじゃ軽すぎる。ビールだけじゃ重すぎる。

  その両方を合わせることで、絶妙なバランスが生まれる」


 女王はグラスを傾け、もう一口飲む。


 「王も同じ……強さだけではなく、優雅さもなければならない」


 最後の一滴を楽しみ、彼女はゆっくりとグラスを置いた。


 「いい夜だったわ。……また来るかもしれないわね」


 「いつでも」


 彼女は微かに笑い、マントを翻す。


 扉の向こうには、漆黒の夜が広がっていた。


 ——今夜もまた、一人の”王”に漆黒の泡を届けた。

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