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第31話「追う者に、血の杯を」

〜賞金稼ぎとレッド・デス〜


 扉が開いた。


 ゆっくりと、だが確実に踏み込む足音。

 カウンターへと歩いてきたのは、一人の賞金稼ぎ。


 深く被った帽子、風に晒された革のコート。

 腰のホルスターには、よく手入れされた短剣と小型のクロスボウ。

 鋭い目つきが、まるで獲物を追う鷹のようだった。


 彼は静かに腰を下ろし、低く呟く。


 「……赤い酒をくれ」


 俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。


 「レッド・デス——追う者に捧げる”血の杯”だ」


 シェイカーにウォッカ、アマレット、スロージン、ライムジュースを注ぐ。

 氷を加え、力強くシェイク。


 ——シャカシャカ、シャカシャカ。


 グラスに注がれた液体は、深紅の輝きを宿していた。


 「どうぞ」


 賞金稼ぎはグラスを持ち上げ、一口。


 「……ふっ」


 アマレットの甘やかな香り、スロージンの濃厚な果実味。

 ライムの酸味がそれを引き締め、最後にウォッカの鋭いキレが残る。


 「……まるで、“死の味”だな」


 俺はグラスを拭きながら言う。


 「お前にとって”赤”は何の色だ?」


 彼はわずかに目を細める。


 「……“死”の色さ」


 グラスの中で揺れる赤。


 「追う者も、追われる者も、いつかこの色に染まる」


 俺は静かに頷く。


 「だが、それでも”赤”を求めるんだろう?」


 賞金稼ぎは苦笑し、最後の一口を飲み干した。


 「そうだな……“獲物”がいる限りはな」


 彼は銀貨を置き、帽子を深く被る。


 「また来る。俺の”赤”が途切れないうちにな」


 扉が開く。


 彼の背中が闇に消えていった。


 ——今夜もまた、一人の”追う者”に血の杯を届けた。

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