〜夢追い人とキューバ・リブレ〜
扉が開いた。
夜風とともに、どこか旅の匂いが流れ込む。
カウンターに腰を下ろしたのは、一人の若者。
陽に焼けた肌、くたびれたマント、
だが、その瞳には”夢”という名の輝きが宿っていた。
彼は微笑みながら言う。
「マスター、“自由な酒”をくれないか?」
俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。
「キューバ・リブレ——夢を追う者の一杯だ」
ロンググラスに氷を満たし、
ラムとライムジュースを注ぐ。
そこへコーラをゆっくりと注ぎ込み、最後にライムを飾る。
琥珀色の液体が泡とともに輝く。
「どうぞ」
若者はグラスを持ち上げ、一口。
「……っはぁ!」
ラムの甘く力強いコク、ライムの爽やかな酸味。
そこにコーラの炭酸が弾け、まるで”自由な風”を思わせる味わい。
「……これは、まるで”旅の途中”の味だな」
俺は微笑む。
「名前の意味を知ってるか?」
「“キューバの自由”だろう?」
「そうだ。“自由を勝ち取るための酒”——まさに、夢追い人にぴったりの一杯だ」
若者はグラスを揺らし、夜を見つめる。
「……旅をしていると、“夢”が遠くなることがあるんだ」
「夢を追うからこそ、な」
若者はくすりと笑い、最後の一口を飲み干した。
「でも、こういう酒を飲むとさ……“まだまだ行ける”って気がしてくる」
彼は金貨を置き、立ち上がる。
「ありがとう、マスター。次に来るときは、“夢を叶えた俺”に相応しい酒を頼むよ」
俺は笑って頷いた。
「待ってるよ。その時は、“勝利の一杯”を出してやる」
扉が開く。
若者は迷いなく、夢の向こうへと消えていった。
——今夜もまた、一人の”果てなき旅人”に自由の一杯を届けた。