目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第34話「果てなき夢に、自由の一杯を」

〜夢追い人とキューバ・リブレ〜


 扉が開いた。


 夜風とともに、どこか旅の匂いが流れ込む。


 カウンターに腰を下ろしたのは、一人の若者。

 陽に焼けた肌、くたびれたマント、

 だが、その瞳には”夢”という名の輝きが宿っていた。


 彼は微笑みながら言う。


 「マスター、“自由な酒”をくれないか?」


 俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。


 「キューバ・リブレ——夢を追う者の一杯だ」


 ロンググラスに氷を満たし、

 ラムとライムジュースを注ぐ。

 そこへコーラをゆっくりと注ぎ込み、最後にライムを飾る。


 琥珀色の液体が泡とともに輝く。


 「どうぞ」


 若者はグラスを持ち上げ、一口。


 「……っはぁ!」


 ラムの甘く力強いコク、ライムの爽やかな酸味。

 そこにコーラの炭酸が弾け、まるで”自由な風”を思わせる味わい。


 「……これは、まるで”旅の途中”の味だな」


 俺は微笑む。


 「名前の意味を知ってるか?」


 「“キューバの自由”だろう?」


 「そうだ。“自由を勝ち取るための酒”——まさに、夢追い人にぴったりの一杯だ」


 若者はグラスを揺らし、夜を見つめる。


 「……旅をしていると、“夢”が遠くなることがあるんだ」


 「夢を追うからこそ、な」


 若者はくすりと笑い、最後の一口を飲み干した。


 「でも、こういう酒を飲むとさ……“まだまだ行ける”って気がしてくる」


 彼は金貨を置き、立ち上がる。


 「ありがとう、マスター。次に来るときは、“夢を叶えた俺”に相応しい酒を頼むよ」


 俺は笑って頷いた。


 「待ってるよ。その時は、“勝利の一杯”を出してやる」


 扉が開く。


 若者は迷いなく、夢の向こうへと消えていった。


 ——今夜もまた、一人の”果てなき旅人”に自由の一杯を届けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?