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第36話「炎を掲げる者に、自由の雫を」

〜革命家とリバティ・ミュール〜


 扉が開いた。


 吹き込む夜風に混じり、どこか火薬と鉄の匂いがした。


 カウンターに腰を下ろしたのは、一人の革命家。

 長いコートの下には、隠しきれぬ剣の柄と銃の影。

 手には古びた紙束——それが”宣言文”であることは、一目でわかった。


 彼は低く呟いた。


 「……自由の酒をくれ」


 俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。


 「リバティ・ミュール——革命の炎を燃やす一杯だ」


 銅製のマグに氷を満たし、

 バーボン、ライムジュース、ジンジャービアを注ぐ。

 ステアすると、黄金色の泡が立ち昇る。


 「どうぞ」


 革命家はグラス——いや、マグを手に取り、一口。


 「……っは」


 バーボンの力強いコク、ライムの鋭い酸味。

 そこにジンジャービアのスパイシーな刺激が加わり、

 まるで”燃え上がる決意”のような味わい。


 彼は目を細め、静かに呟いた。


 「……“リバティ”か。自由を掲げる者の酒、か」


 俺はグラスを拭きながら答える。


 「“自由”を手に入れるには、熱と鋭さが必要だろう?」


 革命家は微かに笑った。


 「……そうだな」


 マグを揺らし、液体の波紋を眺める。


 「革命は、甘くない。

  夢を語るだけでは、“勝ち取る”ことはできない」


 最後の一口を飲み干し、静かにマグを置く。


 「だが……この一杯のように、“刺激”と”熱”があれば——」


 彼は立ち上がり、

 宣言文の束を懐へしまう。


 「……きっと、炎は消えないさ」


 金貨を置き、帽子を深く被る。


 「また来るよ。“勝利の酒”を飲む日までにな」


 「待ってるよ。その時は、“祝杯”を用意しよう」


 扉が開く。


 革命家は夜の闇へと消えていった。

 だが、彼の背中には確かに”燃え上がるもの”があった。


 ——今夜もまた、一人の”炎を掲げる者”に自由の雫を届けた。

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